The History Of Virgin Steele

6TH

The Marriage of Heaven & Hell Pt. I(in 1994)


The Marriage of Heaven & Hell Pt. I
LEXICON
Reviews / Epics / Tracks

〜Reviews〜

1994年に発表されたヴァージンスティールの6th。前作からかなりのハイペースでのリリースとなる。本作は彼らの歴史、そしてエピックメタルの歴史を語る上で欠かすことはできない名盤である。制作メンバーはエピックメタル界の帝王David Defeis(vo、key)、右腕Edward Pursino(g、b)、Joey Ayvazian(ds)の3人から成る。まず初めに記すべきことは、少数のメンバーでも、才能に富むバンドであるならばクリエイティブで芸術的な作品を完成させることが可能であるということである。本作はその事実を雄弁に物語っていといえよう。既にコラム『エピックメタル・ヒストリー:「エピックメタルの帝王」virgin steele』で触れたように、この6枚目のアルバムから、フロントマンであるディビッド・ディフェイの才能は爆発的に発揮されていく。この『The Marriage of Heaven & Hell』、即ち通称「マリッジ作品」には、かつてディビッド・ディフェイが夢見たエピックメタルの理想像が描かれているといっても過言ではない。本作の大仰なロマンティシズムはそれらを如実に物語っているのである。

この作品は、ヴァージンスティールの復活作のみならず、新たなエピックメタルの時代の記念碑的作品となったことは既に疑いようがない。ヨーロッパ全土での絶賛がそうである。それはかつて、地下の人々が望んだ一つの夢に等しい。しかし、この作品が欧州全土に認められることによって、理想郷は現実となったのである。一体誰が予想したことであろう?アメリカの地下世界で産声を上げ、カルト的とまで形容されたエピックメタルが、その世界に認められる日がこようなどとは。これは決して偶然の出来事ではない。彼らの度重なる努力の結果の末に、必然的に起こったことだ。そして本作に秘められた確かな価値を見いだした聴衆も、優れているといわざるを得ないのである。結果的に、世界に認められた形となった彼らとエピックメタルであるが、その後もディフェイの才能は留まることはなく、数多の傑作を世に送り出していったことを、あえて付け加えておくとしよう──

では、本作に表現されたサウンドとは、具体的にいかなるものなのであろうか。間違いなく、これこそがエピックメタルと形容して万人が頷くと断言できるサウンドである。次作以降、バーバリックな作風を完成させる彼らではあるが、本作は、ロマンティックな部分を極めた傑作といえるであろう。本作の楽曲に見られるシリアスさや、大仰なドラマティシズムやロマンティシズムは、エピックメタルの最も基本的なスタイルを如実に物語っている。エピックメタルは常に表現力を惜しむことがないのである。同時に、既存的な概念から離れた、神秘的な内容をも所有している作品であるともいえよう。本作のコンセプトは"人種問題、宗教問題、戦争"。この他に、ディフェイの個人的な葛藤も含まれている。

より現実的なテーマを扱っている──しかし本作を評価する際に、叙事詩的や神話的といった言語は欠かすことが出来ないのも、また事実である──のに対し、この壮大なスケールは驚異的なものである。このマリッジ作品は、元々サーガ的手法で構想されていた大作である。全三部作で完結する予定であり、実は本作と次作はセットとして発表されるはずであった。当然、アルバムの中核を成すコンセプトやテーマメロディ等は同質のものである。ディフェイは作品中の重要なメロディを、楽曲中のキーポイントに配置するという構成を、映画音楽またはオペラで頻繁に用いられている要素からヒントを見出した。故に、アルバムのテーマメロディであり、コンセプトの根底にある輪廻転生を訴えかける旋律が、作品の中核を成しているという訳である。

考えてみてほしい。かのような人類の潜在意識に対してメッセージを送るメロディには、極めて壮大なものが多い。然り、感覚がそう感じてしまっているのかもしれないのであるが、例えば、雄大なメロディとして、北欧のケルト音階を挙げてみるとしよう。ケルト音階は、日本民謡に見られる和音にも共通する部分がある。その結果、日本人には特に魅力的なメロディの一つとして認識されるのである。馴染み深いものは時として魅力的なものとなる。マリッジの壮大な旋律にも同じことがいえよう。なぜならば、マリッジのテーマである輪廻転生は、人類の半永久的なテーマでもあるからである。しかし結局、いくら理論武装したところで、本作を視聴した時の感動的なリアリティに勝るものはないといえる。

この作品には壮大な意志が込められている。それだけは間違いようがない。本作を聴いて我々がどういう類いの刺激を受けるか、それこそが彼らに対する私達の最大の返答なのである。その答えは、私達一人一人の中にあるといえよう。追記ではあるが、本作は2008年にリマスターされ、ボーナストラック入りで再版された。ボーナストラックには至高の名曲"Blood & Gasoline(New Duet Version with Crystal Viper)"を収録。なにより音質が向上したのが嬉しい。


〜Epics〜

・『旧約聖書』
・『新約聖書』
・『大鴉』 / エドガー・アラン・ポー

本作の歌詞は、人種問題、宗教問題、戦争に関するものである。また従来のテーマである『旧約聖書』、『新約聖書』などからの影響も窺える。


〜Tracks〜

1. アイ・ウィル・カム・フォー・ユー
I Will Come for You
エピック・ヘヴィメタルの本格的な時代の幕開けを意味するロマンティックな名曲。ディフェイの情熱的なエピカルウェスパーの炸裂、中間部分における神々しいマリッジ・メインテーマへの劇的な流れ、クライマックスでの大仰な盛り上がりを含め、感動必死の叙事詩である。賽は投げられた。

2. ウィ―ピング・オブ・ザ・スピリッツ
Weeping of the Spirits
彼ららしいシリアスでドラマティックなエピカルナンバー。静かなパートから荒々しいメタルパートへの展開を見せる。スピーディなリフの格好よさは特筆すべきだが、妖艶なコーラスの力強さも最高だ。また若干荒廃しきった古典的ロックの雰囲気があるのも見逃してはならない。そこにはアメリカ生まれのエピックメタルのルーツがあるのである。

3. ブラッド・アンド・ガソリン
Blood & Gasoline
本作に収録された楽曲中、最もヒロイックな最高峰の名曲。大仰なギターメロディが期待感を漂わせるヴァース、更には艶やかなブリッジ(最高のパートだ!)へと導く。バーバリックなヒロイズムとロマンティックなムードが劇的にかみ合ったあまりにも熱いエピックメタルである。身が震えるとは、この曲を聴いているときに用いるのが最も適切な言葉だと思える。

4. セルフ・クルフィクション
Self Crucifixion
これまたロマンティックな楽曲である。ダイナミックなサビが非常に雄々しい。また積極的なピアノの導入が、曲の持つ神秘性とロマンティシズムを十分に生かしている。このような繊細な部分も魅力的である。ディフェイは、キーボーディスト(彼はヴォーカルとキーボードを両立するという、ヘヴィメタル界でも珍しいスタイルを有している)としても天才的である。

5. ラスト・サパー
Last Supper
個人的に私は、本作の#5〜#7を最大のハイライトとして認知している。これからもそれは変わらないであろう。ドゥーミィーに刻まれる怪しげなリフのメロディが印象的な曲であるが、後半の凄まじいまでの盛り上がりには息を呑まざるを得ない。高潔なヒロイズムを滲みだす箇所は、後に十分通じている

6. ウォリアーズ・ラメント
Warrior's Lament
この世のものとは思えないような、ロマンティックなインスト。繋ぎのインストゥルメンタルとしては最高の部類に入ろう。まるで歌劇(オペラ)を見ているようである。

7. トレイル・オブ・ティアーズ
Trail of Tears
ミドルテンポで進むエピックメタルであるが、この曲の真価は中間部からの劇的極まりない大仰な展開にあるといえよう。本曲のソロパートは優雅にロマンティックであり、これは本作を代表するサウンド・スタイルであるといっていい。ディフェイの美しい裏声をバックに、ロマンティシズム溢れるギターメロディを奏でる至高のパートこそは至高といえよう。また。エピローグに設けられたアコースティックパートを経て、一つの物語を終えた達成感を味わうことが出来るのは、エピックメタルの醍醐味であろう。彼らの楽曲の練り方はつくづく素晴らしいと感じさせる。

8. レイヴン・ソング
Raven Song
アメリカ最大の文豪エドガー・アラン・ポオの傑作『大鴉』との関連性を指摘される楽曲。その影響は、楽曲のタイトルにも表れている。軽快なリフに華やかに導かれるエピックナンバーであることには変わりない。ここまで聴けばおのずと分かることであるが、彼らの楽曲に単調な曲などは存在しはおらず、この曲とて例外ではない。

9. フォエバー・アイ・ウィル・ローム
Forever I Will Roam
古典的で美しいバラード。ヴァージンスティールのムーディな部分を余すことなく詰め込んでいる。バラードですら大仰なメロディ、盛大な盛り上がりを見せるところが彼ららしい。

10. アイ・ウェイク・アップ・スクリーミング
I Wake Up Screaming
情熱的なエピックメタル。軽やかにドライヴするリフにエピカルなシャウトが発散される見事な佳曲。ストレートなエピックパワーメタルとしての完成度は非常に高く、最高の高揚感を味わうことが出来よう。キーボードの荘厳なバッキングも秀逸。

11. ホース・オブ・ダスト
House of Dust
魅惑的で美しいバラード調の楽曲。大仰さがとてつもなく魅力的に栄える。神秘的な雰囲気も見事である。

12. ブラッド・オブ・ザ・セインツ
Blood of the Saints
大仰な曲調と神秘性を併せ持つ、典型的で力強い正統派エピックパワーメタル曲。盛り上げ方の技量については見事というほかない。勇ましくあり、ドラマティックなヘヴィメタルの魅力が凝縮されている。

13. ライフ・アモング・ザ・ルーインズ
Life Among the Ruins
前作のタイトルを冠した楽曲。本作の本編ラストを占めるエピックナンバーである。サビでの一心不乱の飛翔感は、まるで高揚する意識が天に昇るかのようである。驚異的なのは中間部での叙事詩的なドラマ性を秘めたギターリフ。この劇的な展開には楽曲が移り変わったのかとさえ思える(この手法は『Invictus』収録の"Mind, Body, Spirit"にも通じる)。ここにヴァージンスティールのドラマティシズムは極まったといえよう。

14. ザ・マリッジ・オブ・ヘヴン・アンド・ヘル
Marriage of Heaven and Hell
天国と地獄の和解を啓示する終曲。幾多ものメインテーマ・シンフォニーが次々と繰り広げられる壮絶な感動短編とでも形容すべきか。この神々しいテーマメロディを作曲したディフェイは天才としか言いようがない。人間の永遠のテーマ、人間の潜在的な意識まで訴えてくる途方もない美旋律とはこのことをいうのであろう。

15. ブラッド・アンド・ガソリン(ニュー・ダスト・ヴァージョン・ウィズ・クリスタル・ヴァイパー)
Blood & Gasoline(New Duet Version with Crystal Viper)
名曲#3の完全版とも言うべき内容。ポーランドの正統派ヘヴィメタルバンド、クリスタル・ヴァイパーによる正式なカヴァー曲である(カヴァーにディフェイ本人が参加している)。驚異的な歌声を持つ女性シンガー、マルタ・ガブリエルが神秘的なブリッジ、サビを熱唱する様は圧巻。一言で表現すると、全編通してロマンティック極まりない。まさに生まれ変わったいうべき名曲中の名曲であり、改めてこの曲の素晴らしさを感じさせられる。このボーナストラックのためにリマスター再販盤を買う価値は十分にあるといえよう。

 

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