The Legend Of Manilla Road

8th

The Courts of Chaos(in 1990)


The Courts of Chaos
LEXICON
Reviews / Epics / Tracks

〜Reviews〜

「ソード・アンド・ソーサリー・サウンド、ここに極まる」
──『METAL EPIC』誌──


1 序章

カルト・エピック・メタルの偉大なる教祖として崇められ続けるアメリカのマニラ・ロードは、1983年に『Crystal Logic』で突如ヘヴィメタル・シーンに頭角を現し、以来破竹の勢いで信奉者を増加させてきた。その勢力はアンダーグランドでは異様ともとれる急激な成長ぶりを見せ、信者の世界各地への拡散はやがて避けられない事態となった。それは同時にエピック・メタルの世界的な流布でもあり、マニラ・ロードを通してこのヘヴィメタルの特異な進化を目の当たりにする者も出現した。最もこれらは一般大衆の社会からは遠く隔てられて勃発した出来事であり、その他大勢の人間は何の変哲もなく普段の生活を送っていたのであった。

2 黄金期

やがてマーク・シェルトン(Mark Shelton:g,vo)、スコット・パーク(Scott Park:b)、ランディー・フォックス(Randy Foxe:g、key)という三人の黄金期のラインナップが完成すると、マニラ・ロードは怒涛の勢いでエピック・メタルの傑作を完成させた。恰もその勢いは『The Deluge』(1986)で叙事詩的に描かれている古代アトランティス大陸を襲う巨大な大洪水の如く猛烈なものであり、休息をほとんど取らずして『Mystification』(1987)、『Out of the Abyss』(1988)という強力極まりない作品が成功に続いた。
この時期のマニラ・ロードはまさに無敵の軍隊であった。唯一絶対のエピック・メタルの覇者──信者たちは"エピック・メタルの神(The God of Epic Metal)"と称していた──として、孤高とも表現できる存在感でシーンに君臨した。意欲的に発表される作品群は一歩ずつ着実に邁進を続け、遂にその築き上げてきた実力が一度に頂点に到達する時期が訪れた。

3 傑作の誕生

そして、マニラ・ロードが1990年に発表した第8作『The Courts of Chaos』こそが、マーク・シェルトンを教祖とする熱狂的な信者たちによって、すべてのカルト的なエピック・メタルの総本山であると見なされている。我々は何度も耳を疑ったが、『The Courts of Chaos』から聞こえて来る音源は事実、カルト・エピック・メタルの本質を物語っているものであった。
不朽の名作『Open the Gates』(1985)とは別の手法──明確には多少は似通っている──で、マニラ・ロードは究極のヒロイック・ファンタジー・メタルを作り上げることに成功した。これはマニラ・ロードがエピック・メタルの歴史において貢献した極めて偉大な功績の一つに数えられ、多くの信者たちは讃辞の意志を抱くべき行為に値する。我々はここで悟った。マニラ・ロードを除いては他に尊敬すべき対象など存在してはいないということを──

4 サウンド

マニラ・ロードの『The Courts of Chaos』は、人間の信仰心を強烈に刺激する作品であり、奇跡的な作品であり、ある意味では最も攻撃的なエピック・メタル作品である。スラッシュ・メタルを完全にエピック・メタルが呑み込み尽くした驚異的なサウンドを有し、終始異様極まる緊張感と破綻したドラマティシズムが我々の陳腐な脳髄を襲う。カルト・エピック・メタルが本来持つべき意味がここにはある。本作に表現されたのは、崇拝者を生み崇められる幻想怪奇の魔力を持ったサウンドであり、恰も映画『Conan the Barbarian(邦題:コナン・ザ・グレート)』(1982)に登場するセト教の大魔道師タルサ・ドゥームの住まう"力の山"を連想させる意味深なカヴァー・アートワークが、その思想を後押ししている。

5 神話の再興

伝説的なソード・アンド・ソーサリーの世界──それらは一度は滅んだが、飽くなき探索者たちの尽力によって再生されるべき定めにあった。長い時間をかけて、ソード・アンド・ソーサリーのもう一つの信者たちはこの世界を追い求めていたが、その世界が限りなく現実とは遠い位置に所属していると悟った時、誰もが思い付かないような行動へと移ったのである。マニラ・ロードがそうであったように、彼らは音楽によるソード・アンド・ソーサリーの再興を望んだのである。当然の如く、飽くまで空想の世界に過ぎない幻想怪奇の光景を現実に表現する作業は難航を極めた。資金面、技術面での絶望的な問題はソード・アンド・ソーサリーの再興という夢を散々に打ち破った。しかし遂に、剣と魔法の世界の信者たちの探求欲がそれらの問題を上回ると、徐々に伝説上の世界は驚きと興奮に満ち溢れた理想郷の幻影を見せ始めた。キリス・ウンゴル、マノウォーの作品がまずこの分野の土台を築き、マニラ・ロードが後に続いた。言うまでもなく"この分野"とは、後のエピック・メタルのことである。

6 エピックメタルの曙

目的は果たされた!ソード・アンド・ソーサリーとヘヴィメタルの融合という挑戦的な試みは成功し、その最高傑作『The Courts of Chaos』が不気味に門口を開けている。我々は信者たちと共に長い山道を登った果てに教祖の鎮座する神殿に赴くか、彼らの背中を哀れみの目で見詰めるか、その何れかである。然り、神秘なる邪教の血脈は再びこの地上に姿を現したのだ。

追記:本作は2002年に「Iron Glory Records」より再発。"Far Side of the Sun (Live)"がボーナスとして収録された。


〜Epics〜

・「剣と魔法」
・『スケロスの書』 / ロバート・E・ハワード
・『クトゥルフ神話』 / H・P・ラブクラフト

従来の「剣と魔法」のテーマ、及び怪奇幻想小説に触発された深遠な世界観が本作の大半を占める。


〜Tracks〜

1. ロード・トゥ・カオス
Road To Chaos
不穏なシンセサイザーの音色が感情を揺さぶるイントロダクション。後半にかけてギター・パートへと展開し、大仰なヒロイズムを発揮。期待感を大いに刺激されるが、その感覚は間違いではない。

2. ディグ・ミー・ノー・グレイヴ
Dig Me No Grave
印象的なメロディを持つエピカル・リフが次第に頭から離れなくなる楽曲。楽曲の展開は至ってシンプルだが、怪しく光るリズミカルなギター・メロディが突出し過ぎている。マニラ・ロードの典型的なエピック・メタルの名曲であろう。

3. D.O.A.
D.O.A.
テキサスのハード・ロック・バンド、ブラッドロック(Bloodrock)のカヴァー。原曲は1971年に発表されたシングルであり、オリジナルに忠実な不気味な旋律が耳に強烈にこびり付く。また長尺の楽曲であり、途中には荘厳なコーラスも配置されている。

4. イントゥ・ザ・コーツ・オブ・カオス
Into The Courts Of Chaos
前半最大のハイライト。マニラ・ロードの生み出した至高の名曲に連なる。人々はマニラ・ロードのサウンドを指して「ソード・アンド・ソーサリーの再来だ」と言うが、本曲を聴けばその言葉が決してまやかしはでないことが発覚する。神秘的なメロディから大仰なリフ・パートへと流れ、中間部と最後のパートでは驚異的なギターソロ・パートを披露する。本曲のソロはエピック・メタル史上最もソード・アンド・ソーサリーの世界を現実に近づけた。ここにマニラ・ロードのカルト・エピック・メタルは極まる。

5. フロム・ビヨンド
From Beyond
決して一貫性を失わない楽曲群。それがマニラ・ロードの崇拝者を続出させる要素であろう。本曲は静から動へと展開するエピック・メタルの佳曲である。濃密なソード・アンド・ソーサリーの雰囲気も醸し、その世界観に忠実なギターソロを披露する。

6. ア・トーチ・オブ・マッドネス
A Touch Of Madness
ミドル・テンポの大作。一部に攻撃的なパートも配す。後半からの陰鬱ながらもヒロイックに盛り上げていくパートは秀逸。マニラ・ロードらしい古く幻想的なムードはここでも存分に漂っている。

7. ザ・インペラー
(Vlad) The Impaler
スピーディな楽曲。スラッシーなリフも持つが、エピック・メタルがスラッシュ・メタルの要素を完全に呑み込んでいる点に注目したい。メロディは完全にアンダーグラウンドのもの。

8. ザ・プロフェシー
The Prophecy
本作の最後に収録された"The Books Of Skelos"と並び、カルト・エピック・メタルの真価を告げる壮絶な名曲。本曲を聴いて我々はカルト的なエピック・メタルの持つ真意を思い知らされる。エピック・メタル界では「エピック・メタル史上最も危険な楽曲」と謳われ、一般人は絶対に聴いてはならないムードを放つ。後半における大仰極まる展開を耳にしようものなら、直ちにマニラ・ロードに対し頭を垂れたくなるであろう。更にギターの発するメロディが常識を逸した異常な雰囲気を宿している。即ち幻想的なアルバム・ジャケットに描かれている光景とは、偉大な教祖の元へと礼拝に参る我々の姿の成れの果てなのである。

9. スケロスの書
The Books Of Skelos (I. The Book of the Ancients - II. The Book of Shadows - III. The Book of Skulls)
太古の魔術書"スケロスの書"をベースに剣と魔法の世界を再現した驚異的なエピック・メタル大作。なおこの魔術書はロバート・E・ハワードの小説にも登場する品である。全三章から構成され、第一章では妖艶な怪奇幻想の世界をメロディアスに描き、続く第二章で一気に攻勢的なエピック・スピード・メタルへと転じる。楽曲に漂う緊張感は壮絶なものであり、特にスピーディな後半においては聴き手の呼吸する暇さえも妨げる。前述の"The Prophecy"と並び、エピック・メタルに金字塔を打ち立てた名曲と言っても過言ではない。この劇的な展開にはヒロイック・ファンタジーの愛好家たちが眩暈を起こしそうである。


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