The Legend Of Manilla Road

13th

Voyager(in 2008)


Voyager
LEXICON
Reviews / Epics / Tracks

〜Reviews〜

「オーディンのために。アスガルドのために。ホルガーは宣言する。彼の審判を──」
──Blood Eagle──


T

我々エピック・ヘヴィメタルの探求者にとって、2000年に再結成を果たしたエピック・メタルの始祖、マニラ・ロードの近年の功績を振り返る際、明確には「3つの傑作が驚くべき短期間のうちに発表された」、という現実に直面する。この5年間の間に、マニラ・ロードは破竹の勢いで才能を爆発させ続け、エピック・ヘヴィメタル史に悠然と輝く一連の名作を誕生させた──2001年にはアトランティス大陸をテーマとした壮絶な『Atlantis Rising』、2002年にはこれまでのエピック・メタルの常識を悉く覆す一大傑作『Spiral Castle』、2005年にはマニラ・ロードの歴史の中で最も叙事詩的な前代未聞の超大作『Gates of Fire』(2005)が発表された。我々はこのあまりにも迅速かつ目覚ましい大躍進に対し、ただマニラ・ロードというバンドの持つ驚異的なポテンシャルを素で受け止めることしかできなかった。短期間で叙事詩的なマニラ・ロードの作品をすべて理解することは難しいが、矢継ぎ早にエピック・メタルの名作を発表し続けることは更に難しい。しかし結局のところ、マニラ・ロードはその偉業をいとも簡単に成し遂げてしまったのだ。そして、このように、エピック・メタルの歴史に新しい三つの大叙事詩が加えられたので、多くのファンは現実を大いに喜んだ。

U

ブライアン・パトリック(Bryan Patrick)の加入によって攻撃性を増したマニラ・ロードは、賛否両論を実力で撥ね退け、彼がマニラ・ロードにとって必要な存在であることを証明した。元来ブライアン・パトリックはデス・メタルやブラック・メタルのために上手く歌うことができるヴォーカリストであったが、アンダーグラウンド寄りの湿った歌唱を披露するマーク・シェルトン(Mark Shelton:g、vo、key)とは上手くいかないと信じ込まれていた。その逆境を見事に克服したのが前作『Gates of Fire』であり、ブライアン・パトリックの凶暴な唸り声は重厚なエピック・メタルのサウンドに特筆すべきアグレッションを加え、前述の通り、エピック・メタルの優れた傑作を誕生させることができた。この時点で、ブライアン・パトリックのヴォーカルに難癖を付ける者は消えた。 2008年に発表されたマニラ・ロードの第13作『Voyager』において、ブライアン・パトリックは一時的な休養のためにバンドを離れているが、代わりに兄弟のハーヴィ・パトリック(Harvey Patrick:b、vo)が素晴らしい仕事をこなしている。彼らの持ち込んだ強烈なインスピレーションを抜きにして、本作は完成しなかったであろう。既にブライアン・パトリックの兄弟は、マニラ・ロードの新しい"顔"として見事に定着していた。

V

本作『Voyager』は、マーク・シェルトン、ハーヴィ・パトリック、コリー・クリストナー(Cory Christner:d)によって制作された雄大なコンセプト・アルバムである。既にエピック・ヘヴィメタル界の教祖マーク・シェルトンの持つ壮大な構想によって生み出された新時代の3つの作品において、過去にマニラ・ロードがテーマとして選択してきた題材は殆ど消化された。ロバート・E・ハワード、H・P・ラヴクラフト、エドガー・アラン・ポー、クライブ・バーカーといった過去の作家たちが残した作品は、古くマニラ・ロードの叙事詩的な音楽性に影響を与え続けてきた要素である。マーク・シェルトンはこれらの幻想的な題材を巧みに扱い、純粋かつ大仰なエピック・メタルを完成させることに成功した。そして、今回、新しくマニラ・ロードは12世紀の時代へと旅立ち、中世のヴァイキングの一団が体験した壮絶な航海と叙事詩的な戦争を壮大なスケールで描いている。マニラ・ロードが奏でる古代の悠久の調に乗せて、我々はその劇的な物語の行末を見届けることになるのだ。

W

……如何なる時代においても古代の信仰が生き長らえているように、本作の雄大な"Voyager"で描かれている冒険者たちは、必然的な理由から新天地を目指す航海へと旅立っている。古代の信仰を崇拝している北欧人にとって、キリスト教への改宗は耐え難い屈辱であったので、彼らはヴァイキングとなって戦争や略奪を行ったり、自分たちにとってより良い環境である(と信じられていた)アメリカへと旅立っていった。今作の物語の主人公であるホルガー(Holgar)とそのヴァイキングたちも、同じようにキリスト教への改宗から逃れるために、遠い異国の地へと出航する。彼らは冒険の途中で様々な困難と出会ってこれを乗り越え、最終的には古代アステカの国に到達する。そこでヴァイキングたちは「ククルカンのピラミッド」、即ちチチェン・イッツァ(カスティーヨ)を発見するというのだ。この伝説的な中世時代の冒険譚が本作の主なストーリーとなっており、マニラ・ロードは従来の古典的なエピック・メタルの手法でこれらを鮮明に描ききっている。

X

マニラ・ロードが生み出したコンセプト・アルバムの頂点に位置する本作は、これまでの作品以上に強いデス・メタルの影響を残し、暗く重い叙事詩的な雰囲気によって支配されている。"Conquest"に表現されているハードコアなスタイルは、マニラ・ロードにとっては古くも新しい要素だ。ファンならばこれをスラッシュ・メタルを導入していた時期と重ねることができるかも知れない。80年代の伝統的なエピック・メタルを踏襲しながらもよりソリッドに進化しているリフは、楽曲の重厚なサウンドと相俟って何れも唯一無二の"マニラ・ロードのエピック・メタル"を形成している。今回、中世をテーマにしたことで使用が増加した高潔なアコースティック・ギターは、全体により深遠かつ叙事詩的な雰囲気を与え、"Tree of Life"のような素晴らしい名曲を生んでいる。 過小評価されているが、マニラ・ロードの表現力には驚くべきリアリティが存在している。既に過去の名作が物語っているが、マニラ・ロードは作品のテーマに沿った雰囲気を自在に作り出すことができる。我々は『Atlantis Rising』での異国風な雰囲気や、『Gates of Fire』での古代ギリシア・ローマ時代に対する忠実な表現力を高く評価している。また本作『Voyager』でも、極めて時代背景に沿った迫真の世界が構築されており、今作における時代考証の正確さは明らかに突出している。『Voyager』の再現する叙事詩的な中世ヴァイキングの世界観が、我々にとっての新しい視野の獲得と、久しく忘れ去っていた過去の興奮を呼び覚ましてくれる。マニラ・ロードは再び歴史的なエピック・メタルの傑作を生み出したのだ。


〜Epics〜

・ヴァイキング、ホルガーの航海

本作はコンセプト・アルバムであり、12世紀のあるヴァイキングの一団の航海と戦いが描かれている。


〜Tracks〜

1. 蛇王の墓 / 海の虐殺者
Tomb of the Serpent King / Butchers of the Sea
キリスト教の布教から逃れるために、勇士ホルガーに率いられたヴァイキングの一団は遥かなる土地を目指して船出する。語りを導入した不穏なイントロダクションから始まり、重厚かつヘヴィなエピック・メタルへと展開する典型的なマニラ・ロードの名曲である。

2. 氷と炎
Frost and Fire
ヴァイキングの一団がアイスランドに辿り着く。かつて北欧の王はキリスト教への改宗を宣言し、異教徒との間に血が流された。荒涼としたアイスランドにも多くの異教徒が住まったが、現在この土地での戦いは終結している。ダークな雰囲気に包み込まれたエピック・メタルであり、ペイガニズムを表現する暗いメロディが、本作のデス/ブラック・メタルとの共通点を物語っている。

3. 生命の木
Tree of Life
およそ8分に及ぶ大作。世界樹(ユグドラシル)──すべての生命の源である生命の木は、9つの神秘的な世界へと繋がっているとして、北欧の民は今もこの伝説を信じている。美しいアコースティック・ギターが奏でる高潔な音色が印象的なこの素晴らしい名曲は、本作の一つのハイライトとして記録される。叙事詩的な真のバラードである。

4. 血の鷲
Blood Eagle
アイスランドを出港し、グリーンランドを経由してヴィンランドへと辿り着いたホルガーとヴァイキングの一団。ホルガーは古代の信仰と神々の土地を汚したとして、かの地で出会った司教を殺害する。なお"血の鷲(Blood Eagle)"とは、オーディンに捧げられた、残忍な方法で行われるヴァイキングの生贄の儀式である。パイプオルガン風の中世を彷彿とさせる旋律で幕開ける本曲は、雄大なコーラスを有するコンセプチュアルなエピック・メタルの佳曲。

5. 冒険者
Voyager
およそ9分に及ぶ本作のメイン・テーマ。新天地を目指して凄絶な嵐の中を突き進むヴァイキングたちの生き様を描いている。まさにエピック・メタルに相応しい壮大・凄絶な内容を有し、孤高のドラマ性を表現した劇的な緩急に富んだ名曲である。雄大なコーラスを配した数々の場面が、ヴァイキングの勇士たちの泥臭い熱気を呼び起こす。マニラ・ロードここにあり。

6. 嵐の目
Eye of the Storm
中世時代の雰囲気を宿すドラッド。戦士的なロマンティシズムを表現したアコースティック・ギターの音色が遥かなる記憶を呼び覚ます。

7. 蛇王の帰還
Return of the Serpent King
およそ8分に及ぶ大作。ホルガーとその仲間たちは、アステカの支配者であるトルテック族との戦争に加わる。ドラマティックなエピック・メタルであり、後半に大仰なギターソロ・パートを配す。なお"蛇王(Serpent King)"とは、マヤ神話の至高神ククルカン(Kukulcan)を指している。

8. 征服
Conquest
刃を交える長剣のような鋭利な戦いの歌。征服が始まり、ヴァイキングはヴァルハラのために戦う。そしてアステカの古代文明は犠牲となり、勝利はヴァイキングのものとなる。本作中でも最速である本曲は、暴虐的なまでに圧倒的なスピードで疾走し、怒涛のアグレッションを叩きつける。

9. 死の舞踏
Totentanz (The Dance of Death)
最後の楽曲。戦争で死んだ偉大なる王のために、残された人々は死の舞踏を繰り広げ、ヴァイキングの勇敢なる冒険者たちは讃えられる。スパニッシュな雰囲気を宿す繊細なパートと、圧巻のリフが刻まれるパートとに分かれる名曲である。本作を締め括るに相応しいドラマ性を有している。


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