The Legend Of Manilla Road

12th

Gates of Fire(in 2005)


Gates of Fire
LEXICON
Reviews / Epics / Tracks

〜Reviews〜

プロローグ...
マニラ・ロードの再結成は運命であった。ここに来て怒涛の快進撃を続けるアメリカのマニラ・ロードは、エピック・メタルの名作を矢継ぎ早に発表し、問答無用でファンを納得させた。既に新生マニラ・ロードによって『Atlantis Rising』(2001)、『Spiral Castle』(2002)という途轍もないエピック・ヘヴィメタルの傑作が生み出されており、我々はマニラ・ロードの絶対的なポテンシャルを改めて確認させられることとなった。この仕事は決して金のためではない──純粋なエピック・メタルへの探求心が生み出した奇跡を、事実我々は目撃したのである。 そして再び、マニラ・ロードのエピック・メタルの主な崇拝者である我々は、信じられないような奇跡を目の当たりにすることとなる。1981年にレコーディングした音源を再発した企画盤『Mark of the Beast』(2002)に次ぐマニラ・ロードの行動は、これまでで最も叙事詩的な作品の制作に着手することであった。そして、そのために、エピック・メタルの始祖マーク・シェルトン(Mark Shelton:g、vo)は、驚くべき手法で壮大な叙事詩の構想を練り始めていた。 バンドにも変化があった。過去にランディ・フォックスとの間に生じた確執のために脱退したハーヴィ・パトリック(Harvey Patrick:b)が再びバンドに加入したのだ。第2のヴォーカリスト、ブライアン・パトリック(Bryan Patrick:vo)の兄弟でもあるハーヴィ・パトリックは、マニラ・ロードが必要な仕事をやり遂げるために必要なメンバーであった。 歳月は流れた。新作を制作する過程において、西洋におけるキリスト教以前の時代に遡り、マーク・シェルトンは特筆すべき三つの叙事詩を発見した。この歳月の蚕食に耐えた素晴らしい叙事詩は、やがて長大なトリロジー(三部作)として、マニラ・ロードの第12作目の作品『Gates of Fire』の礎を築くこととなった。新曲の録音を終えると、そこに誕生したのは、マニラ・ロードの歴史の中で最も叙事詩的な超大作であった。多くの人間が気付くことはなかったが、マーク・シェルトンはまた一つ、エピック・メタル界に奇跡を起こしたのである...


T

我々が知る以上に、キリスト教以前の時代には驚嘆すべき物語が数多く存在している。古代ギリシアの神話や伝承、古い「剣と魔法の物語」の原型はその時代の歪から生じ、何時の時代も我々の精神を興奮と歓喜で満たしてきた。アメリカのエピック・メタルの始祖、マニラ・ロードはそれらの忘れ去られた時代の叙事詩に光をあて、本作『Gates of Fire』を通じ、伝統的なエピック・メタルとして現代に蘇らせている。これまでに発表してきた古典的なエピック・メタル作品の中でも数々の神話や伝承、幻想的な文学の類を扱ってきたマニラ・ロードだが、今作でもその真価が遺憾なく発揮されている。

U

キリスト教以前の世界からインスパイアされ、後の時代に誕生していった叙事詩の中に、本作『Gates of Fire』を紐解く鍵が隠されている。神話とは創作であり、決して事実を物語っているわけではない。それは古代の時代に生きていた人間が現在では誰も生存していないために、神話と史実の境界線が曖昧になっているためだ。ハインリッヒ・シュリーマン(Johann Ludwig Heinrich Julius Schliemann, 1822 - 1890)による発掘作業の結果、神話上の都市トロイアは実在したことが判明している。現在のギリシアのテルモピュレの道にレオニダス王のブロンズ像が堂々と立っていることは、紀元前のペルシア戦争における300人のスパルタ兵の戦いが史実であったことを立証している(古代ギリシアの歴史家ヘロドトスは、このテルモピュレでの戦いを『歴史(historiai)』第7巻「ポリュヒュムニア」に記述している)。神々と英雄の時代の叙事詩的な神話は、そのすべてが空想上の出来事ではないのだ。マニラ・ロードはトリロジーの第二部と第三部で、この遥か太古の壮大な叙事詩を取り上げている。

V

アメリカのテキサス出身の小説家、ロバート・E・ハワード(Robert Ervin Howard, 1906 - 1936)は、幼い頃から歴史を学び、その深遠な世界に魅了されている。幼少期のハワードが特に好んだのが北欧神話に代表される英雄譚であり、大人になって成功を収めた『コナン(Conan)』シリーズにも北欧神話の神々や地名などが登場する。「氷神の娘(The Frost Giant's Daughter)」は北欧神話に強く影響を受けた作品であり、物語の荒涼とした雪の世界の雰囲気や、終盤に霜と氷の巨人イミルが登場するなど、幼少期のハワードの趣味が良く活かされている。マニラ・ロードのトリロジーの第一部で取り上げられているのは、この奇怪ながらも幻想的な英雄譚であるのだ。

W

本作『Gates of Fire』では、それぞれ異なる三つの時代の三つの叙事詩から構成された長大なトリロジーが描かれている。全三章に分けられた叙事詩的な物語は、全9曲のエピック・メタルから構成され、大作至高の各楽曲の内容には、古代の時代の出来事が濃厚に描写されている。事実マニラ・ロード最大の超大作でもある本作は、第一部にロバート・E・ハワードの小説『コナン(Conan)』より「氷神の娘」、第二部に古代ローマの詩人、プブリウス・ウェルギリウス・マロ(Publius Vergilius Maro, 70 - 19 B.C.)の残した最後の叙事詩『アエネーイス(Aeneis)』、第三部に紀元前のペルシア戦争における"テルモピュライの戦い(Battle of Thermopylae)"を題材として選択している。これらの時代を超越した血拭き肉躍る伝説が純粋なエピック・メタルのサウンドと劇的に融合を果たし、本作『Gates of Fire』の唯一無二の迫真の叙事詩的世界は形成されているのだ。本作が完成したその日に、マニラ・ロードが歩んできた足跡は遂に歴史となった。そして、信者たちは、半永久的にエピック・メタルの偉大な始祖の名を決して忘れ得ぬことであろう──


〜Epics〜

・『氷神の娘』 / ロバート・E・ハワード
・『アエネーイス』 / ウェルギリウス
・テルモピュライの戦い

本作は三つの叙事詩をテーマとし、それぞれロバート・E・ハワードの『氷神の娘』、ウェルギリウスの『アエネーイス』、古代ギリシャの史実"テルモピュライの戦い"が選択されている。


〜Tracks〜

Trilogy 1: The Frost Giant's Daughter

1. 鋼の謎
Riddle Of Steel
北の雪原で戦う男たち。戦士が戦場で斃れる時、"鋼の謎(Riddle Of Steel)"の真実は明かされる。この物語は、古くハイボリアに伝わる伝説である。エピカルなサウンドが若干籠っているのが残念だが、本作の冒頭を飾るに相応しいヒロイックな内容を有している。

2. ビハインド・ザ・ヴェール
Behind The Veil
荒涼とした雰囲気が漂うアコースティック・ギターによる小曲。ここでは氷神の娘が斃れた英雄を人間ならざる美で妖艶に誘う場面が描かれる。

3. ウェン・ジャイアンツ・フォール
When Giants Fall
欲望に負け、本能のみで氷神の娘を追うコナンの前に、二人の氷の巨人が立ちはだかる。コナンはいとも簡単に巨人たちを打ち倒すと、念願の娘のもとに殺到する。しかし、氷神の娘が父親イミルの名を叫ぶと、辺りに青白い光が放たれ、娘は何処かへと消え去ってしまう。本曲はソード・アンド・ソーサリー・サウンドを表現したエピック・メタルの傑作であり、過去のマニラ・ロードの利点が殆ど結集されている。コンセプトに忠実である野蛮なサウンドに加え、幻想的なコーラス・パートは信者を熱狂させるに十分な魅力を持っている。

Trilogy 2: Out Of The Ashes

4. イリアムの滅亡
The Fall Of Iliam
およそ14分に及ぶ超大作。本作最大のハイライトである。英雄アイネイアス(Aeneas)が炎に包まれるトロイアを逃れ、新天地イタリアを目指す物語が描かれている。アイネアスは嵐に合ってカルタゴへと流れ着き、美しい娘ディド(Dido)と出会い恋仲になるが、運命によってローマを建国するよう定められていたため、娘とカルタゴを後にしローマへと旅立つ。『Gates of Fire』という、マニラ・ロードの歴史の中で最も叙事詩的な作品である本作を象徴する名曲であり、静と動の応用、壮大なスケール感に満ちた最長のギターソロ、英雄叙事詩を意識した雄大なコーラスは圧巻。劇的な緩急を用いたコーラス・パートでは、トロイア戦争での悲劇的な場面を叙事詩的に描写する。これらの要素が渾然一体となって生み出される迫真の世界観は、まさに壮絶である。本曲はマニラ・ロード最大の大作であろう。なおタイトルに用いられているイリアム(Iliam)とはラテン語でトロイを意味する。

5. インペリオス・ライズ
Imperious Rise
人々の記憶の中に生き続けるローマ建国の英雄ロームルス (Romulus) とレムス (Remus)。彼らは古謡の中で語られるトロイの民の意志を受け継ぎ(ロームルスとレムスはアイネイアスの子孫であった)、偉大なるローマの民を育てた。薄暗いエピカルなリフが古代の臭気を醸し出し、それは最後のヒロイックなコーラス・パートで爆発する。

6. ローマ
Rome
およそ11分に及ぶ大作。強大な帝国へと発展したローマ。その真の創始者は英雄アイネイアスである。神話の中で彼の物語は叙事詩として永久に語り継がれる。重厚な内容を有するエピック・メタルであり、物語のクライマックスに"The Fall Of Iliam"の叙事詩的なギターソロ・パート、 "Imperious Rise"のヒロイックなコーラス・パートを導入する。ヴァージンス・ティールにも通じるこの手法は、マニラ・ロードのエピック・メタルのために今回、大きな役割を果たしている。

Trilogy 3: Gates Of Fire

7. スタンド・オブ・ザ・スパルタンズ
Stand Of The Spartans
スパルタ王レオニダスに率いられ、勇猛な軍隊はテルモピュライで圧倒的なペルシア軍を待つ。開戦前の緊張感の如く、重苦しい雰囲気が本曲を支配している。なお「テルモピュライ」という名前は"灼熱の門(Gates Of Fire、Gates Of Marriage)"を意味する。

8. 裏切り
Betrayal
およそ8分に及ぶ大作。裏切りによって、300人から成る鉄壁のスパルタ兵の陣形は崩れ去る。異様なまでにヒロイックなムードと死地の雰囲気に満ちた楽曲であり、コーラスでは雄大ながらも悲壮感を感じさせる旋律を用いている。後半の長尺なギターソロは一心にヒロイズムを追求。

9. エピタフ・オブ・ザ・キング
Epitaph Of The King
およそ10分に及ぶ、『Gates of Fire』最後の叙事詩。究極の英雄主義を表現した叙事詩的バラードの最高傑作である。勇猛果敢に死んだレオニダス王とその兵を讃え、高潔なアコースティック・ギターの旋律と興奮を呼び覚ます哀愁のリード・ギターが途方もない空間を作り上げる。感動は必至。マニラ・ロードの作品でこれ以上のエピローグは存在していない。なお最後のエピローグで登場するメロディは、第4作『Open the Gates』(1985)収録の名曲"The Ninth Wave"からの引用である。


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