The Legend Of Manilla Road

10th

Atlantis Rising(in 2001)


Atlantis Rising
LEXICON
Reviews / Epics / Tracks

〜Reviews〜

1 歴史;解散

1977年のアメリカのカンザス州・ウィチタでの結成以来、少数ながらも熱狂的な信者たちによって支えられ、これまでにエピック・メタル(Epic Metal)と称される独自の分野をヘヴィメタル・シーンの中で開拓・発展させてきたマニラ・ロードは、唯一無二の教祖マーク・シェルトン(Mark Shelton:g、vo)の発散する強烈なカリスマ性に加え、執拗なまでに徹底した鋼鉄の信念のもと、長きに渡り活動を続けてきた。"Epic Adventure"と称された不朽の名作『Crystal Logic』(1983)を生み出た後、マニアに最高傑作と謳われる『Open the Gates』(1985)を発表すると、アンダーグランドのエピック・メタル・シーンにおいて、マニラ・ロードの名は墓地に出没する亡霊の怪異譚のように囁かれる暗い伝説と化した。
陰鬱な雰囲気に満ちたマニラ・ロードは、自室に篭り奇怪な作品集を生み出す幻想作家の如く、自らの作品において独自の世界観を追求した。主に題材として選択された分野は、アメリカの怪奇小説家H・P・ラヴクラフトの小説、文豪エドガー・アラン・ポオの詩、ロバート・E・ハワードに触発されたソード・アンド・ソーサリー(Sword and Sorcery)の世界であった。これらは現在ではエピック・メタルの礎を築いている基本的な要素だが、当時は明確な定義など存在していなかった。 エピック・メタルの創始者であるマーク・シェルトンのみは、自分たちがバンドでやっていることを完全に理解していた。世俗的な世界が本質を欠いてヘヴィメタル・ミュージックを常に見下しているように、世間の目は冷たかった。それらは時にマニラ・ロードの音楽性を大仰だと卑下したり、子供じみているとして嘲笑するといった形で表面化していった。当然の如く、マニラ・ロードが多くを犠牲にして──例えば金や家族との時間などを失って──やっていることはシリアスであったし、意味のあることであった。しかし結局のところ、その正確な事実を熱狂的な信者たち以外が認める機会は遂に訪れなかった。
やがてマーク・シェルトン、スコット・パーク(Scott Park)、ランディ・フォックス(Randy Foxe)という伝説の──或いはヘヴィメタル界で最も過小評価されている──3人のメンバーによって制作された最後の傑作『The Courts of Chaos』(1990)が発表されると、熱狂的な信者たちはこれをソード・アンド・ソーサリー音楽の聖典とした。マーク・シェルトンはこの偉大な作品を指して「マニラ・ロードの最初の真の傑作」と称している。ここに来てマニラ・ロードは一応の目標を達成した事になるが、しかし、これまでと同じようにエピック・メタル・シーンの外では本作の内容に対して一切の沈黙が貫き通された。「ヘヴィメタル界でマニラ・ロードほど才能に恵まれながらも歴史の影に埋もれ、軽視されてきたバンドは存在しない」皮肉にもこれは真実である。マーク・シェルトンという謙虚な人間は恐らく知り及んでいた──自身がマニラ・ロードで活動を続ける限り、未来永劫に渡り商業的な成功は掴めない。しかし、それで良いのだ。マーク・シェルトンが一貫した姿勢を崩すことはない。我々がマニラ・ロードの存在に気が付くずっと前から、マーク・シェルトンは"純粋なエピック・メタルを創造する"という使命を背負っていたのである。
バンドに転機が訪れた。スコット・パークとランディ・フォックスの確執によってマニラ・ロードは『The Courts of Chaos』の発表後に解散。心機一転を図るべくマーク・シェルトンがソロ・プロジェクトの活動を進めた矢先に最悪の事態が起こった。マーク・シェルトンと契約していた「Black Dragon Records」はソロ・アルバムのタイトルを『The Circus Maximus』(1992)に変更後、当人の意図に逆らってマニラ・ロード名義で本作を発表したのだ。マニラ・ロードとは掛け離れた音楽性を有した『The Circus Maximus』はレーベル側が見込んだ売り上げも大幅に下回り、熱狂的な信者たちを大いに憤慨させ、読んで文字の如く大失敗した。この事件以降、マーク・シェルトンは「Black Dragon Records」に対して強い反発を覚え、以後およそ9年に渡り音楽活動を休止した。誰もが望んでいない最悪の物語の結末であった。

2 歴史;再結成

マーク・シェルトンがマニラ・ロードを解散させてから長い歳月が流れたある日のこと、マーク・シェルトンはランディ・フォックスと再び連絡を取った。マーク・シェルトンはマニラ・ロードの歴史を振り返り、ランディ・フォックスとの長い議論の末、物事は良い方向へと進む兆しを見せた。当時ロードマネージャーの仕事をしていたブライアン・パトリック(Bryan Patrick:vo)の兄弟は、マニラ・ロードのために協力を惜しまなかった。
再び明るい兆しが見え始めたマーク・シェルトンは、マニラ・ロード再結成のためのメンバーを集め始めた。いくつかの短いショウの後、バンドはランディ・フォックスの助言に従い、新作のための新しい録音機材を購入した。これらの行動は、マニラ・ロードの最終目標が単なるライブのためのバンドの再結成ではなく、今一度エピック・メタル・シーンに帰還することを目的とした事実を証明しているものであった。
マーク・シェルトンとブライアン・パトリックがマーク・アンダーソン(Mark Anderson:b)と共に新作の録音に努めている間、マニラ・ロードにとって好意的な話が舞い込んできた。2000年、マニラ・ロードがようやく再結成したその年に、ドイツのフェスティバルでの演奏が決定したのである。当然の如く、バンドはこれを完全復活の場として捉えていた。しかし、マーク・シェルトンはライブのためにランディ・フォックスをドラム奏者として再びマニラ・ロードに呼び戻さなければならなかった。
連絡を受けたランディ・フォックスはフェスティバルへの出演を承諾した。次いでマーク・シェルトンはフェスティバルの開催者にバンドの出演が可能であることを告げた。しかしその3日後、ランディ・フォックスが突如として出演をキャンセルしたため、マニラ・ロードは予約していたショウをすべてキャンセルするという事態に陥った。マーク・シェルトンはマニラ・ロードのキャリアのために極めて重要であるこのフェスティバルに参加するため、ランディ・フォックスにショウへの出演を認めなければ、早急にドラム奏者を変更することを冷酷に告げた──かくして、盟友ランディ・フォックスはマニラ・ロードを去った。これはマニラ・ロードの未来のためには必要な犠牲であった。
ドイツでのフェスティバルは異例の大反響のうちに幕を閉じた。マニラ・ロードは長い間、全くヘヴィメタル・シーンに顔を見せていなかったが、これほどまでにマニラ・ロードの再結成を強く待ち望んでいる欧州の熱烈なファンの凄絶な光景を始めて目にすることとなった。熱狂的な信者たちがいてこそ、マニラ・ロードは始めて己の存在意義を認めることができた。決起したマーク・シェルトンが9年来の舞台に立つと、瞬く間にコロッセオの如き大歓声が周囲に巻き起こり、恰も偉大なる教祖を崇めるような異様な熱気が会場を埋め尽くした。母国アメリカでは過小評価されているが、今や欧州では、マニラ・ロードの名はマノウォーやヴァージン・スティールと同じくらい有名になっていた。
バンドはフェスティバルの後、復活作となる最初の新作のための録音を続けた。この期間にいくつかの短いショウも重ねた。既にマーク・アンダーソンの友人であったスコット・ピータース(Scott Peters:d)をバンドに迎え入れていたマニラ・ロードは、遂に念願のバンドとしての体制が完成した状態にあり、長年エピック・ヘヴィメタルのファンたちが待ち続けてきた新作を発表する機会が訪れた。そして、マニラ・ロードはその渾身の作品を『Atlantis Rising』と名付けていた...

3 『Atlantis Rising』について...

本作『Atlantis Rising』はマニラ・ロードの第10作目の作品に当たる。本作がこれまでのマニラ・ロードの作品と最も異なっている点は、第2のヴォーカリストとしてブライアン・パトリックがバンドに迎えられていることである。アンダーグラウンドの音楽性に相応しい歌唱を続けてきたマーク・シェルトンに対し、ブライアン・パトリックの歌唱はブラックやデスを彷彿とさせる獰猛なスタイルに接近する。マニラ・ロードは強烈なアグレッションによって、本作に全く新しい要素を加えたことになる。
多くの面において、『Atlantis Rising』は傑作『The Courts of Chaos』の次に発表されるべき内容を有している。レーベル側の思惑によってマニラ・ロード名義で発表された作品『The Circus Maximus』を除いては、正しく本作こそがマニラ・ロードの第9作目の作品として相応しい。本作において、エピック・メタルと形容される大仰なサウンドはより一層強靭に生まれ変わり、神話やソード・アンド・ソーサリーに影響を受けた孤高の世界観は不変の状態のまま受け継がれている。 マーク・シェルトンは本作のコンセプトに対し、第5作『The Deluge』(1986)で選択したアトランティス大陸の伝説を再び題材としている。当然の如く、これらのコンセプトは単純に過去の焼き直しではなく、マニラ・ロードの追求してきた世界観の集大成的意味合いを含んで構成されている。これまでにマニラ・ロードはH・P・ラヴクラフトやノルウェー神話などを好んで作品のモチーフとしてきたが、今作ではそれらの要素が先述したアトランティス大陸の伝説に組み込まれる形式を取っている。重厚かつ鋭利なエピック・メタル・サウンドによって表現される古代の深遠なテーマ──これこそがマニラ・ロードの目標とした音楽性だ。
要するに本作のコンセプトでは、アトランティスの失われた大陸の上昇によって勃発する旧支配者(Great Old Ones)とエーシル神族(Asir)の叙事詩的な戦争について描かれている。選択された題材の起源は様々な分野に渡る。アトランティス大陸の伝説は主に古代ギリシアの神話より組み込まれ、旧支配者はH・P・ラヴクラフトによって原型が築かれ、後にオーガスト・ダーレスによって完成させられた一連のクトゥルー神話から拝借されている。旧支配者との間で戦争を行うエーシル神族とは、即ちアイスランド語の言葉であり、その正体は一般的に我々のよく知る北欧神話のアース神族のことを指している。興味深いことは、マニラ・ロードは古い文献に忠実であり、アトランティス大陸のスウェーデン説を発表したオラウス・ルドベック(Olaus Rudbeck)の著作『Atland eller Manheim』(1679〜1702)からアトランド(*Atland)の名を物語に用いているということだ。これらの要素が複雑に絡み合い、『Atlantis Rising』の壮大な物語は構築されている。
『Atlantis Rising』はマニラ・ロードの傑作に相応しい。エピック・メタルに必要な要素が結集され、一切の妥協のない緊張感に満ちた迫真のサウンドを全体で構築している。神秘世界への徹底した傾向は言わばマニラ・ロードの特権だが、今回は大胆な発想の勝利である。ブライアン・パトリックの持ち込んだ新しい要素は、一部のエピック・ヘヴィメタルのファンによって正当に評価されることになる。また一部では、ブライアン・パトリックの攻撃的な歌唱について物議も醸されることになろう。しかし、このようにマニラ・ロードはエピック・メタル・シーンに堂々の帰還を果たし、新しい金字塔『Atlantis Rising』を地下に配給させることに成功した。マーク・シェルトンさえいればマニラ・ロードは健在である。『Atlantis Rising』を皮切りとして、過去の失った時間を埋めるように、ここからマニラ・ロードの快進撃が始まる。我々はやがて、その凄絶な光景を目にすることになろう。

*スウェーデン語。オラウス・ルドベックによるアトランティスの言語。19世紀に「アトランティス」に変更される。


〜Epics〜

・アトランティス伝説
・北欧神話
・『クトゥルフ神話』 / H・P・ラブクラフト

上記のアトランティス伝説、北欧神話、クトゥルフ神話に触発された叙事詩的な物語が展開する。


〜Tracks〜

1. メガロドン
Megalodon
マニラ・ロードの完全復活を遂げる強靭な楽曲。絶滅した太古の生物(サメ)メガロドンについて扱い、およそ8分を超える濃密な内容を有する。鋼鉄のリフによって構築され、激しく脈動するダイナミックなサウンドが周囲のものすべてを圧倒する。

Book I. The Rise (of Atland):

2. レムリア
Lemuria
神話上の大陸の名を冠した小曲。不穏なSEと幻想的なメロディに彩られながら、壮大な物語が幕を開ける。

3. アトランティス・ライジング
Atlantis Rising
大洪水の後に再び上昇するアトランティス大陸を描いたタイトル・トラック。新生マニラ・ロードのすべてを結集した強烈無比な名曲である。古代文明を彷彿とさせる異国風の旋律を交えながら、波打つ海洋のような曲調を基盤にして壮絶な展開が待ち構える。なおゲスト・ヴォーカルにダービィ・ペンタコースト(Darby Pentecost)が参加。

Book II. The Fall (of Atland):

4. シー・ウィッチ
Sea Witch
ここではアトランティス大陸が上昇する時、海底に封じ込められた邪神クトゥルーも甦るとされている。バラード調の楽曲であり、そのメロディックな内容は本作でも抜きん出ている。マーク・シェルトンによるメロディアスなヴォーカル・ラインが聴き手の興奮を誘い、後半の劇的なリード・ギターによってカタルシスは爆発する。なおブライアン・パトリックは本曲でドラムをプレイ。

5. リザレクション
Resurrection
クトゥルーとミッドガルドの神々との間に不穏な緊張が流れている。大仰さを爆発させるエピック・メタルの金字塔である。重厚かつ劇的なリフがヘヴィかつメタリックに展開される。ミドル・テンポからの猛烈な疾走、エピカルなギターソロの導入に加え、エキゾティックなサビのコーラスでは哀愁のメロディを振り撒く。

6. デシメーション
Decimation
解放された旧支配者の黒い軍隊が人類を襲う。ダークな雰囲気を醸し出す重厚な楽曲。

Book III. Bifrost (the Rainbow Bridge):

7. ファイト・オブ・ザ・レイヴンス
Flight of the Ravens
オーディンの従えるワタリガラスが荒廃した地上の惨状を目にする。アコースティック・ギターを用いた小曲であり、前半では特に印象的であった異国風の旋律が荒涼としたものに変わっている。構成は"Lemuria"に類似。

8. マーチ・オブ・ザ・ゴッズ
March of the Gods
神々の行軍の様を描いた楽曲。ビフレストを渡りヴァルハラの英雄たちが地上に降り立つ。なおマニラ・ロードの物語では、北欧神話の記述に従い人間の住まう国をミッドガルド(Midgard)としている。

Book IV. The Battle (of Midgard):

9. シージ・オブ・アトランド
Siege of Atland
アトランティスで勃発する旧支配者とアース神族の軍勢による叙事詩的な戦いを描く。この凄まじい戦場を徹底的に描写するために、暴虐的なまでにアグレッシブなサウンドが本曲には表現されている。マニラ・ロードのポテンシャルの高さを証明するような、一切の妥協のない徹底した内容は秀逸であり、まさに本編の極めて攻撃的な特色を存分に発揮しているといえよう。

10. ウォー・オブ・ザ・ゴッズ
War of the Gods
海の神ポセイドンがアトランティスに帰還することによって、遂に戦争は終結する。およそ8分に及ぶ内容であり、本作の最後を飾るに相応しい大作に仕上がっている。独特の重苦しい雰囲気に包まれ、マーク・シェルトンがコンセプトの最終章を朗々と歌い上げる様は印象に残る。


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