The Legend Of Bal-Sagoth

HISTORY T

A Black Moon Broods Over Lemuria(in 1995)


A Black Moon Broods Over Lemuria
LEXICON
Reviews / Epics / Tracks

〜Reviews〜

このアルバムは、後に"Kings Of Barbarian Metal"として世界に知られることとなる、Bal-Sagoth(バルサゴス)の記念すべき1stアルバムである。きっとどんなバンドもそうだろうが、決して彼らの叙事詩は、唐突に始まっていった訳ではない。イギリス、ヨークシャーに生を受けた作詞家、バイロン・ロバーツ(vo)が初めてバルサゴスという一大プロジェクト──彼が愛してやまないSF・ファンタジィの世界及び古代の伝説・神話をベースにしたダークなエピック・ヘヴィメタルバンド──の構想を練った時、世界は、まだ1989年という若さだった。やがて、バルサゴス(*バンド名の由来については、「コラム・ザ・コラム」第一回を参照)というバンドを正式に結成するまでに、彼は約4年の歳月を必要とした。

バイロン卿が本格的にバルサゴスを始動させるに至ったのは、天才的な音楽家であるモードリング兄弟との出会いが非常に大きく働いたといえよう。それは、他ならぬ、後のバルサゴスの極めて驚異的なサウンドに決定的な貢献を果たすことになるキーボーディストJONNY MAUDLING(ジョニー・モードリング)とギタリストCHRIS MAUDLING(クリス・モードリング)のことだ。バルサゴスという極めて高度なヘヴィメタルバンドを完全な形態に近づけるためには、彼らほど才能があって適切な人物は、世界中何処を巡ってもそうそう出会うことができなかっただろう。しかし、バイロン卿は、彼ら兄弟と偶然にも出会ってしまった。かくして、バルサゴスという天武のメタルバンドは、世界へ進撃するための基礎を整え、本格的に軌道した。モードリング兄弟、そして、ジェイソン・ポーター(Ba)という人物を新たにバンドに迎え、彼らが加入した同年の1993年にはデモを制作することに成功した。そのデモを皮切りにして、彼らは、1stアルバムの制作に着手したのである。

バイロン卿が思い描いた壮大なコンセプトを実現すべく、この1stアルバム『A Black Moon Broods Over Lemuria(邦題:レムリアの空に浮かぶ黒き月)』は制作された。本作こそが、バルサゴスの世界での本格的なキャリアのスタートになったのだ。記述するまでもなく、バルサゴスのサウンドには、バイロン卿自身のお気に入りの音楽性が徹底的に詰め込まれている。まずもって本作のメタルのサウンド表現に選択されたのは、ブラックメタルだった。ブラックメタル及びデスメタルが、バイロン卿が最も好んでいたヘヴィメタルのスタイルだったからだ。その次に選択されたのは、神秘的かつ特異な世界観をより重厚にし、異世界の雰囲気を確固たるものにするためのキーボード(シンセサイザー)だった。当然の如く、この問題は、天才的なキーボーディストであるジョニーによって迅速に解決された。彼のキーボードに対する絶対的なセンスは、この1stでは、バックの装飾に留まっているに過ぎないが、雰囲気において多大な貢献を果たしているのは、誰の耳にも明らかだ。

バルサゴスにとって唯一無二であり、最大の個性である、古代の神話・伝説、SF及びファンタジィの世界観にに題材を得た、壮大な詞世界もこのアルバムから開始された。どうやら既にこの頃から、2nd、3rdの構想は、バイロン卿の中にはあったようで、1stアルバムは、サーガ三部作の第一部として位置づけられた。主に太古の世界──バイロン卿が語るには、アンティディルビア(ノアの大洪水以前)の世界──に重点を置いた本作では、重く暗い厳粛な雰囲気が全編を覆い隠すような作風となっている。後に続いていく彼らの前代未聞の試みは、メタル界でも異例の出来事だった。このスタイルを世間では、エピックと形容するかどうかは、まだ当時においては、幾分か怪しまれていたが、何か可能性を持った存在がこの時産声を上げていたというのは、確かだった。バルサゴスの1stが発表された時、イタリアのラプソディ(後に四部作サーガを創ることとなる)は、まだデビューすらしていなかったのだ。

紆余曲折あったが、事実として、エピックメタルの歴史的な意味合いを込めたこのバルサゴスのアルバムが世界に送り出されたのは、1995年のことだった。本作が完成したのは、発表より約一年早い1994年だったが、レーベル間の諸問題で翌年の1995年のリリースとなった。当時は、まだメタルの低迷期であったにも関わらず、時代の風潮をものともしない彼らの行動は、彼らが生み出すことになるウォーメタルを体現しているかのようにも映った。しかし私としては、バイロン卿は、あらゆる時代性、周囲の物事を全く意図せずに、この作品を産み落としたのかとさえ思るのだ。なにより、作品の詩世界がそう物語っているようである。ある種の探索者であるバイロン・ロバーツは、本作の発表によって、ただ自らの夢を一歩近づけただ。その行為には、我々が賛同するもしないも、称賛するも非難するも、様々なアクションを起こすだろうが結局は、外の世界での出来事に過ぎないのである。自らの世界を探求するものに、外部の干渉は無用である。バイロン卿は、メタル界でも特筆して知的な人物である。H・P・ラヴクラフトの神話を題材に、大学の卒業論文を書き上げ、イギリスのシェフィールド・ハラム大学を首席で卒業したという経歴も持っている。しかしそれ以前に、神秘的な出来事、過去に失われた知識に対する知的好奇心が強い人物である。私はこのような人物達のことを「知識の探索者」として独自に命名しているが、恐らくは彼もそうだろう。そして彼は、その中でも非常に優れているのだ。このように私は、バイロン卿という人物像自体に対して非常に深い興味と考察を抱いているが、内面的な部分についての話はここまでにしよう。恐らくは、永遠と長引いてしまうだろうから。

かくして、デビューを果たしたバルサゴスであるが、先述したサウンド面については、純粋なブラックメタルに類似しているといえるだろう。1stの主な特徴としては、残虐なリフ、ブラストビートを駆使した猛烈なアグレッションを軸としている(それでも疾走率は、他から見て中間位に位置する)。その中でも、一層強烈な個性を叩き出しているのが、バイロン卿の唯一無二のヴォーカルスタイルである。彼が生み出した、デスヴォイスとナレーションを臨機応変に使い分けるという技法は、バルサゴスの魅力の一つを確立した。本作は、めまぐるしい曲展開も随所に見られるが、それを印象的なラインでなぞり、劇的なパートに押し上げているのも、ナレーションの効果に他ならないのである。特に、太古のレムリア大陸を舞台にした#4の語りに至っては、驚異的な迫真性を持ってして聴き手に迫る。また、他の要素として、バルサゴスの標榜する世界観を醸している要素があり、アーノルド・シュワルツネッガー主演の名作映画『コナン・ザ・グレート』のサウンドトラック(作曲家ベイジル・ポールデュリスによる)からの引用的フレーズを用いた#3、#9は、名曲に値する。この試みは、2ndまで続けられるが、それ以降導入されなくなったのは、自らのサウンドが確立したからだと考えるのが妥当だろう。突出した名曲が数曲、全体の完成度も申し分ない。

当時、このアルバムを聴いていた人々は、どういった評価を下しただろうか。きっと大きな可能性を秘めていると思ったに違いない。そう考えた者は、自分の考えが間違いではないと、後に気づくことになるだろう。このアルバムを総評するいい言葉がある「一人の人間にとって小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ」ここで、アポロ11号のアームストロング船長が月面歩行の際、言い放った有名な言葉を引用したのには訳がある。当時、約7億人の人々がこの言葉を聴いていたという。では、バルサゴスの1stアルバムを聴いた人間は、世界で一体何人いたのだろう。これには少なからず、私の個人的な疑問が含まれているということを、お分かり戴けよう。


〜Epics〜

・レムリアの空に浮かぶ《黒き月》
・《蛇王神殿》での即位
・サファイアの玉座の静寂の間へ

本作の歌詞は、物語というより詩に近い形態で叙述されている。ある意味物語の序章として受け止めるのもいいだろう。


〜Tracks〜

1. ハテグ=クラ
Hatheg Kla
ここからすべてが始まったといえる。伝説の霊峰ハテグ=クラより若き候補者は言い放った「いざ禍々しき六の鍵の力を解き放つべし!」このようにして、バルサゴスの伝説は幕を開ける。意味深なイントロダクションではある。

2. アトランティスの尖塔の夢
Dreaming Of Atlantean Spires
時に失われた丸天井の墓所にて、魔法使いは、伝説の影の王を呼び出す。全ての魔女が余の処に飛び交い、黒き魔法の剣と不死の風が余を包む。黒き門が開かれるのだ。

3. 呪文と月炎(氷の要塞を越えて)
Spellcraft & Moonfire (Beyond The Citadel Of Frosts)
狼の支配者は森に再び訪れ、月に合わせて歌う。黒い石は、冬の月の永遠の力を霞め取る。暗く重いリフに幽玄なキーボードが絡む序章からやがて一変し、残虐的な疾走を開始する。しかし、テンポチェンジなどの要素を盛り込みただの他のブラックではないことを痛烈にアピールする。特に、中盤に登場する静寂パートからコナンのシンセサイザーへの流れに至っては、鳥肌が立つほどのカタルシスを覚える。曲展開においては、既にめまぐるしいものが十分にあるといっていいだろう。

4. レムリアの空に浮かぶ《黒き月》
A Black Moon Broods Over Leumria
太古の時代、現在のインド洋に隆起していたという、伝説のレムリア大陸を舞台にした荘厳なるタイトルトラック。神秘的な荒野、古代の国々の魔法、煌く狼の目、月の欠片、古き神々の夢が垣間見える。太古のレムリアの上空にて、《黒き月》は浮かぶ。そして、《静寂の谷道》への道が開けるのだと、古代の伝説は物語る。その世界観に見合う厳かなドラムのリズムと神秘的なジョニーのプレイが絶妙にかみ合った初期の名曲。その壮絶なイントロ、中盤、アウトロのドラム・リフは名演に値する。醸される雰囲気は、まさに異世界、異次元と呼べる浮世離れしたものであり、あらゆるものを震え上がらせる。攻撃的な雪崩れ込みも、勇ましさを醸しだすのに成功している。余りにも神秘的かつ、叙事詩的な曲である。後半の静寂パート、バイロン卿の威厳のある語りから神聖ですらあるシンセが流れ出るパートには感動を覚える。この圧倒的な世界観、構成をエピックと呼ばずに何と呼ぼうか。

5. 蛇王神殿での即位
Enthroned In The Temple Of The Serpent Kings
ここで語られる《蛇王神殿》とは、伝説的な《蛇王》を称賛するために作られた、極北の氷河地帯にある途方もなく巨大な神殿のことである。しかしそんなことは構わず、楽曲は、ややサタニックな雰囲気を放ち疾走。サイケデリックな禍々しさに満ちた曲である。バイロンの語るナレーションパートは、ストーリーテリングで素晴らしいが、クリス・モードリングのギタープレイもテクニカルな変則を連発。

6. 黒ピラミッドの影
Shadows 'Neath The Black Pyramid
《ダゴンの沼地》を横切り、漆黒の門が開き、黒きピラミッドへと至る道が記されている。暗く重いシンセとリズミカルなブラックリフが刻まれる曲。静と動の両パートを駆使した、各パートは非常にテクニカル。 バックのキーも邪悪な雰囲気を演出。クライマックスでの神秘的な疾走もいい。

7. 魔女嵐
Witch-Storm
金切り声をあげるギターから始まる。禍々しさと闇の雰囲気を持って疾走。語りに合わせるリズムパートは魅力的なパートだろう。壮大なキーに、セリフを吐き捨てながら疾走部分は後に通じる。

8. 血の饗宴
The Ravening
遥か太古、鋼鉄の剣の時代に、剣によって支配した君主を描く詩である。重厚かつ破壊的な一曲。恐るべき正確さで打ち込まれるリフ、ドラムが無情。アグレッシブなブラックとしてはいいだろう。幽玄なキーボードも印章的だ。

9. サファイアの玉座の静寂の間へ
Into The Silent Chambers Of The Sapphirean Throne
1stアルバム最大のハイライトともいうべき、恐るべき完成度を誇る、バルサゴス屈指の名曲である。太古の伝説的な王国であるヴァルーシア(通称"影の王国")の伝説、その血塗られた世界と幾多の戦いの歴史、そして、やがては大海に沈みゆく巨大国家の行く末が物語られるという、壮絶なる叙事詩である。詩に登場する"カ ナマ カァ ラジェアマ、ヤグコーラン ヨク ター フタルラ!"の呪文は、何れもバイロン卿が尊敬してやまないロバート・E・ハワードの小説から引用されたもの。ブラックの攻撃性をうまく取り入れ、そこに厳かな語り、異様な雰囲気を放つキーを導入。そして、この曲が名曲たる最大の由縁は、映画からの拝借パートが余りにもマッチしている点にある。ドラマ性、スケール感、リリシズムは極限状態といってもよく、コナンのメインテーマを低音ギターで奏でるパートの厳かさ、ヒロイズムには身も凍る。その歴史的なメロディを伴っての疾走は、言語に絶する。驚異の大傑作といえよう。

10. 静寂の谷道
Valley Of Silent Paths
アルバムのエピローグ。各詩に登場する《静寂の谷道》がタイトル。なんとも不気味なシンセの音が木霊する。

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