エピックメタルの父

The Father of Epic Metal

著者:Cosman Bradley
翻訳:METAL EPIC

2 エピックメタルの父としてのハワード

The Father of Epic Metal

 リヒャルト・ワグナーを「ヘヴィメタルの父」と称するのであれば、ロバート・E・ハワードは「エピックメタルの父」である。僅か30年という短い生涯を送り、類稀な文才に恵まれ、人間の長寿と真向から対峙した人物がハワードその人である。人生の輝ける一瞬を生き、不朽の名作を世に残した"小説家"ハワードの影響の影は、爾来、幻想文学の域には押し留まらず、アート、音楽、映画産業へと拡大していった。ハワードの小説に触発された様々な作品がある。ハワードの代表作「コナン(Conan the Barbarian)」はジョン・ミリアスの映画『Conan the Barbarian(邦題:コナン・ザ・グレート)』(1982)として生まれ変わり、ベイジル・ポールドゥリス作による素晴らしい映画サウンドトラックの同名の傑作を生み出した。後の時代、このサウンドトラックは、エピック・メタル作品で頻繁に引用される屈指の人気作となっている。アートの分野では、アメリカのフランク・フラゼッタやケン・ケリーが才能を開花させ、想像の領域から視覚の段階へと移り変わったハワードの世界観を幻想的なイラストレーションで表現して人気を博した。現在までにケン・ケリーのアートワークが数多くのエピック・メタル作品の表紙を飾っていることは、ファンならば既に承知の事実である。何世紀経っても古代の神話や叙事詩が影響力を持っているように、リン・カーターやL・スプレイグ・ディ=キャンプなどの後続の作家たちは、ハワードが未完のまま残した作品を編集し、偉人の死後も数々の「新作」を世に送り出した。この挑戦は一部の層で非難されたが、多くの"ハワード愛好家"たちは未読の遺産を楽しむことを選んだ。このように、時代を超えてハワードの創造した世界観は受け継がれていった。やがてその流れは、当然の如く、ヘヴィメタルの分野にも手を伸ばし始める。ハワードの残した功績録の中に「ヒロイック・ファンタジー(剣と魔法)のサブ・ジャンルを確立した」という項目があるが、エピック・メタル史において極めて重要な項目であった。歴史は続く──ハワードの作品に触発された後の作家たちはヒロイック・ファンタジーの伝統を踏襲し、数多の小説を発表していく中で、実質的な功績を作り上げ、現在へと続く「剣と魔法(Sword and Sorcery)」小説の幅を押し広げていった。その代表的な作家の中に混じってフリッツ・ライバーやマイケル・ムアコックらが名を連ね、フリッツ・ライバーは1960年に「剣と魔法」という正式名称を唱え──また彼は「ファファード&グレイ・マウザー(Fafhrd and the Gray Mouser)」というヒロイック・ファンタジー小説も残している──、マイケル・ムアコックは1961年に"永遠のチャンピオン(The Eternal Champion)"シリーズの第一作目となる『夢見る都(The Dreaming City)』を発表した。70年代初期にイギリスからブラック・サバスが登場し、ヘヴィメタルの礎を築くと、徐々にセックスやドラッグのテーマから離れたソングライティングが求められ始め、キリスト教や現代戦争以外の題材が必要となった。イギリスのホークウィンドはマイケル・ムアコックのヒロイック・ファンタジー小説を題材とした『Warrior On The Edge Of Time』(1975)を発表。ヘヴィメタルの分野に開拓すべき可能性があることを証明した。これに影響を受けたキリス・ウンゴルやマニラ・ロードなどの後続は、80年代初期──ちょうどヘヴィメタルが急成長を始めた時期である──に叙事詩的な文学作品とヘヴィメタルを融合させたサブ・ジャンルを模索し、これが後にハワードを起源とする「剣と魔法」小説と出会い、現在の"エピック・メタル"が誕生した。我々が調査を重ねていく前に、エピック・メタルにおけるハワードの影響力は既に巨大な枠組みを作り上げていた──マニラ・ロードのマーク・シェルトンは、影響を受けた最大の作家としてハワードの名を挙げた。傑作『The Courts of Chaos』(1990)では、「剣と魔法」小説の世界観が忠実に再現されている。マノウォーのジョーイ・ディマイオは、ハワードのキング・カル(King Kull)とコナンを偉大な英雄として称賛し、自らのバンド・イメージとしてそのヒロイズムを代用した。第2作『Into Glory Ride』(1983)や第4作『Sign Of The Hammer』 (1984)などの名作では、野蛮ながらも高潔な〈コナン〉の世界がダークなエピック・メタルとして描かれている。イギリス、バルサゴスの詩人バイロン・ロバーツは、エドガー・ライス・バロウズやH・P・ラブクラフトを差し置いて、最も影響を受けた作家としてハワードの名を挙げた。第1作『A Black Moon Broods Over Lemuria』(1995)と第2作『Starfire Burning Upon The Ice-Veiled Throne Of Ultima Thule』(1996)では、ベイジル・ポールドゥリスのサウンドトラックからのメロディが拝借されている。また、"バルサゴス"というバンド名は、ハワードの短編小説『バル=サゴスの神々(The Gods of Bal-Sagoth)』(1931)に由来したものだ。イタリアの古豪ドミネは、ムアコックやハワードの世界観を追求したエピック・メタル作品を残した。第4作『Emperor of the Black Runes』(2003)収録の"The Aquilonia Suite"では、ベイジル・ポールドゥリスのサウンドトラックからのメロディが拝借されている。若い世代においてもなお、ハワードの影響力は顕著であった。イタリアのロジー・クルーシズは、第一作『Worms of the Earth』(2003)でハワードの小説『大地の妖蛆(Worms of the Earth)』(1932)を題材とし、その後も第2作『Fede Potere Vendetta』(2009)においてハワードの世界観を追求した。ドイツのクロムもハワードからの影響を受けたバンド名を使用──クロム(Crom)とはキンメリア人が信仰した大神である──しており、エピック/ヴァイキング・メタルに傾倒した劇的でヒロイックなサウンドを提示した。同郷のマジェスティも立派なマノウォーのフォロワーであり、ケン・ケリーを起用した勇壮なカヴァー・アートワークがハワードへの傾向を示している。アメリカのハイボリアン・スティールは、特にハワードの"ハイボリア世界"を重点的に描いた作品を発表した……これらの実例の殆どは、我々の研究の成果だが、ここでもすべてが網羅されているわけではない。問題点を挙げるとすれば、ハワードの甚大な影響力がエピック・メタルの精神的な中枢に至るまで、あまりにも大きくなりすぎてしまったことだ。現在、過去に残された事実が既に証明しているように、ハワードはエピック・メタルに携わる人間にとって永久の父性的存在であり、尊敬と賛辞の対象であり続けている。今日のエピック・メタル・シーンは、ハワードが1930年代に「ヒロイック・ファンタジー」の市民権を獲得したことにすべて由来している。数多のエピック・メタル作品の中で追求されてきたそれらの普遍的なテーマは、ハワードが生涯を懸けて追求した分野でもあるのだ。栄光、挫折、才能、早すぎる死──今回、我々は一つの結論に達した。すべてのエピック・メタルに携わる人間にとって、ロバート・アーヴィン・ハワードは偉大な父である。"彼の名は永久に生き続けるであろう(His name will live on forever)"。

{Oct 13, 2012}
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