歴史

The History

著者:Cosman Bradley
翻訳:METAL EPIC

「エピックメタルとは、叙事詩的なヘビィメタルの総称であり、主に大仰かつ劇的でヒロイックなヘヴィメタルを形容する際に用いられる言葉である」
──Cosman Bradley──


Synopsis:

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 EPIC(エピック)という単語を邦訳すると"叙事詩"という言葉になり、これはいわゆる「歴史や伝説・神話の物事を記述する」といった意味を持つことになる(また他に、「勇壮」、「英雄的」といった意味も持つ)。要約すると、古来から民族間に伝わってきた物語のことなどを漠然と指し示している。大昔から語り継がれてきた物語の多くは、現在も叙事詩としていくつかの古典文学に残されている。我々はより馴染み深い小説としてそれらの伝記に触れることもあろう。
 叙事詩の起源は、紀元前にまで遡ることができる。世界最古の叙事詩は、『ギルガメシュ叙事詩』(紀元前約2600年前)であると現在は伝えられている。一般に有名な叙事詩的文学作品は、中世英雄時代(8世紀〜13世紀頃)に形成されたものが多く、『ベオウルフ』、『ニーベルンゲンの歌』、『ローランの歌』、『アーサー王物語』、『ディートリヒ・フォン・ベルン』、『ヒルデブラントの歌』等があり、これらは主に「英雄叙事詩」という名称で呼ばれる。この他にも、北欧の詩人らによってまとめられたサガ(Saga)やエッダ(Edda)等の作品も存在し、主に上記の分野に所属する。また近年では、17世紀の詩人ジョン・ミルトンの『失楽園』や、13世紀から14世紀にかけての詩人ダンテの『神曲』等の古典文学を取り上げて、叙事詩的作品として扱うことも多い。これらの作品に触発されたヘヴィメタルが、主にエピック・メタルと呼ばれ、叙事詩な文学作品は、その基礎となっている世界観や時代性を形作っている。なおバンドによっては、過去の叙事詩的作品を意図的に扱わず、想像の範囲内で叙事詩を創作し、その世界を舞台とする場合もある。
 エピック・メタル・バンドは上記の世界観──主に古代、中世の時代──に傾向し、作品中に取り上げることが多い。主にコンセプチュアルなアルバムやストーリーを組み立て、いかに叙事詩的なヘビィメタルを作り上げるかの模索を重ねるのが、エピック・メタル・バンドの特色である。時にバンドによっては、何枚ものアルバムに渡りストーリーを展開する試みも行われ、大作映画にも通じる重厚な世界観が展開される。楽曲の題材となるのは、先述した古代や中世を舞台とした実在の史実や架空のファンタジー等であるが、ヒロイック・ファンタジーの分野においてはロバート・E・ハワードの創造した『コナン(CONAN)』、ハイ・ファンタジーの分野においては、J・R・R・トールキンの想像した『指輪物語(The Lord of the Rings)』からの影響が根強く残る。現在は一般的に、欧州出身のエピック・メタル・バンドが傾倒するのが『指輪物語』であり、米国出身のエピック・メタル・バンドの傾倒するのが『コナン』という図式が出来上がっている。
 サウンドは非常に特徴的であり、叙事詩的な世界観を表現すべく、あらゆる挑戦がこれまでに試されてきた。その主なものとしては、キーボードによる交響曲調の旋律や台詞・SE等の導入、オペラ(演劇)に相当する劇的な曲展開、史劇を彷彿とさせる重厚なサウンドの構築、およそ10分を超える大作曲の制作などが挙げられる。エピック・メタルの楽曲は、古典的な手法と様式美的な構成を取り入れ、正統派メタルにも通じる部分が見受けられる。またエピック・メタルの間でも、正統派メタルを基軸にするバンドとメロディック・パワーメタルを基軸にするバンドとでは、サウンドや表現手法が大きく異なるのである。
 他と一線を画すエピック・メタルのサウンド面における最大の特徴は、聴き手の高揚感を誘発するヒロイズムである。ここでは、主に英雄的な叙事詩の世界に忠実であるヒロイックなサウンドを表現することにより、エピック・メタルはより強烈な個性を主張する。エピック・メタルを簡潔に示すとなれば、"大仰かつ劇的でヒロイックなヘビィメタル"ということになろう。

History:

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 エピック・メタルの本格的な歴史は恐らく、マニラ・ロード(MANILLA ROAD)のマーク・シェルトンが第一作『Invasion』(1980)のインタビューの際に、「発表したアルバムのスタイルをどう形容するか」という質問に対し「EPIC METAL」と答えた時から始まったとされるが、諸説は様々ある。エピック・メタルの誕生をキリス・ウンゴル(CIRITH UNGOL)の第一作『Frost & Fire』(1980)を起源とする説や、マノウォー(MANOWAR)の『Battle Hymns』(1982)を最初とする説などが他に存在するが、先述したマニラ・ロード説が最も有力であると現在は考えられている。
 しかし、エピック・メタル誕生以前にもイギリスのホークウィンド(HAWKWIND)がマイケル・ムアコックの世界観に影響を受けた『Warrior On The Edge Of Time』(1975)を発表していたし、突然この分野が誕生していったわけではない。80年代初期に発表されたマノウォーの『Battle Hymns』の表題曲"Battle Hymns"が極めて現在のエピック・メタルのスタイルに近いため、この楽曲がエピック・メタルの原型となった可能性は非常に高いとされている。他にもこの時期イギリスのアイアン・メイデン(IRON MAIDEN)など、極めてエピカルな方向性のヘヴィメタルを作るバンドは多かった。しかし80年代初期の決定打は、マニラ・ロードの発表した第3作『Crystal Logic』(1983)であった。これまでのヘヴィメタルの常識を覆すストーリーテリングな内容を描き、ヒロイックな概念のリフを始めて持ち込んだとされる本作は、後のエピック・メタルの確立に多大な貢献を果たした。
 80年代後半に入ると、本格的にJ・R・R・トールキンの『指輪物語』などのファンタジー作品に傾倒したブラインド・ガーディアン(BLIND GUARDIAN)が登場し、その大仰でドラマティックなサウンドから、一部ではブラインド・ガーディアンのサウンドをエピック・メタルと形容した。『指輪物語』からの影響はヘヴィメタル・シーンでも初期ブラック・サバス(BLACK SABBATH)の作品に見られるほど欧州ではポピュラーな題材であったが、ハロウィン(HELLOWEEN)影響下のメロディック・パワー・メタルから派生したブラインド・ガーディアンの登場は、後の欧州におけるエピック・メタルのスタイルを決定付けるものとなった。しかし何れも明確なエピック・メタルの確立と認知には至らなく、エピック・メタル・シーンは長らくアンダーグラウンドを主戦場とし、一部でカルト的な人気を博していった。地下アメリカで活躍したブローカス・ヘルム(BROCAS HELM)やオーメン(OMEN)を筆頭に、イタリア最古のエピック・メタルとして知られたアドラメレク(ADRAMELCH)など、世に出てない名前は驚くほど多かった。
 このような曖昧な時代に遂に終止符を打ったのがアメリカのヴァージン・スティールの第6作『The Marriage of Heaven & Hell』(1994)であった。本作がその続編『The Marriage of Heaven & Hell, Pt. II』と共に1995年のヨーロッパ圏で決定的な成功を収めると、世界的にエピック・メタルの名は認知された。現在、この成功はエピック・メタルの歴史の中で極めて重要な事項として挙げられている。これによってヴァージンス・ティールはエピック・メタルの帝王に相応しい名声を手にした。エピック・メタルのファンたちは敬意を込め、偉大なアメリカのエピック・メタル・バンド、マノウォーとヴァージンス・ティールを指して"エピックメタル界の双璧"と呼んでいる。またこの時期、壮大な詞世界で独自のエピック・メタルを極めていくイギリスのバルサゴス(BAL-SAGOTH)も『A Black Moon Broods Over Lemuria』(1995)で密かにデビューを飾った。
 90年代後半になると、エピック・メタルの風向きは更に変わる。イタリアのラプソディー(RHAPSODY)が発表した『Legendary Tales』(1997)の成功によって、エピック・メタル・バンドは大幅に増加する。同国ではドミネ(DOMINE)やドゥームソード(DOOMSWORD)、マーティリア(MARTIRIA)、ロジー・クルーシズ(ROSAE CRUCIS)などのバンドが世界に進出し、この事実が物語るように、後にイタリアはエピック・メタル大国となった。他、スペインからはダークムーア(DARK MOOR)やサウロム(SAUROM)など、エピック・メタルの新時代を担うバンドが登場していった。ラプソディーは自ら作り上げたサーガ四部作を2002年に完成。ドミネにおいては、名作『STORMBRINGER RULER -The Legend of the Power Supreme-』(2001)に代表されるヒロイックかつ幻想的な一連のエピック・メタル作品を立て続けに発表し、かつてキリス・ウンゴルが提示したマイケル・ムアコックの『永遠のチャンピオン』シリーズを描いたエピック・メタル群──即ちソード・アンド・ソーサリー(Sword and Sorcery)の世界を描いてきたエピック・メタルの分野に一旦の終止符を打った。しかし、現在も未だに表舞台に登場していないエピック・メタル・バンドの数は計りしれず、これらの数は正確に計測されていない。
 21世紀、エピック・メタルは進歩の一途を辿り、日々飛躍を重ねている。80年代に比べエピック・メタルの規模は大幅に膨れ上がり、未だ認知に乏しい地域はあるものの、エピック・メタル作品が年内に発表される数は飛躍的に上昇した。その作品も様々な内容である。シンフォニックな手法でエピック・メタルを追求するパスファインダー(PATHFINDER)のようなバンド、正統派でエピック・メタルを追求するドゥームソードのようなバンド、劇的な手法でエピック・メタルを追求するサウロムのようなバンド、映画のような手法でエピック・メタルを追求するラプソディー・オブ・ファイアのようなバンド、果てはバルサゴスのように、我々の想像もつかないような手法でエピック・メタルを極めようとするバンドが登場する。この先、一体如何なるエピック・メタル・バンドが登場してくるかは分からないが、我々はその後を追い続けるのみである。

{Feb 19, 2010}
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