The Legend Of Domine

4th

Emperor Of The Black Runes(in 2004)


LEXICON
Reviews / Epics / Tracks

〜Reviews〜

「そしてキンメリア人の誇りによって、いつの日かアキロニアの王冠は我がものとなろう」
──The Aquilonia Suite - part I──


1 地位の確立

長年エピック・メタルという地下の分野を探求してきた我々にとって、ドミネ(DOMINE)という強烈な名は忘れ得ぬものである。第2作『DRAGONLORD(Tales from the noble steel)』(1999)から劇的なまでにヒロイックなエピック・メタルの世界観を絶え間なく追求してきたドミネの才能は、一大傑作『STORMBRINGER RULER -The Legend of the Power Supreme-』(2001)で宇宙規模の大爆発を引き起こした。過去のホークウィンド、そしてキリス・ウンゴルの時代から続く古典的なヒロイック・ファンタジーの世界をヘヴィメタルで表現するという、全く不可能と思われた斬新な試みは、まさにドミネの登場によって覆されたのである。
我々はドミネの齎した功績について考える際、必ずイギリスの作家マイケル・ムアコック(Michael John Moorcock)の功績も同時に思い出すことになる。マイケル・ムアコックの創造した途方もない世界観──『永遠のチャンピオン』シリーズで描かれた多元宇宙という果てしない構造──に対する飽くなき探求が、結果としてドミネに素晴らしい恩恵を授けたのである。この古典的なヒロイック・ファンタジーは、ハワードの名作『コナン』のように、エピック・メタルという分野で何れ再現されるべき題材であったが、現代におけるヘヴィメタルの著しい低迷、更には挑戦的なバンドが現れないことも、この課題に時間を費やす原因となっていた。
ドミネがイタリアのフィレンツェで1983年に結成された時、可能性はまだ小さかった。歳月をかけて完成させた4本のデモ・テープは、カルト・エピック・メタルのマニアですら見出すのに長い時間がかかった。ドミネの第一作『Champion Eternal』が発表されたのは1997年であり、エンリコ・パオリ(Enrico Paoli:g)とリッカルド・パオリ(Riccardo Paoli:b)の兄弟の夢は、忍耐という壁に押し潰されかけていた。それでもなお、ドミネがバンドを続けられてきた背景には、ヒロイック・ファンタジーへの飽くなき情熱があったからこそである。掲げられる気高い理想が平然とあるように、理想とは叶えられるべきものであった。
ドミネには才能がある。だからこそエピック・メタルのファンは未熟な『Champion Eternal』を絶賛したのだし、ドミネの肩を持ち続けたのであろう。彼らの選択は正しかった。今や苦渋の過去は去り、ドミネはエピック・メタル・シーンにおける王者のような風格を宿した最重要バンドとなって、この分野で偉業を成し遂げた数少ない英雄(ヒーロー)として、支持を受けている。我々は叙事詩の中の英雄がかつてそうであったように、古強者であるドミネを讃え、その偉業を振り返る。恰もタルサ・ドゥームの軍隊の如く、大地を轟かす凄絶なドミネの行軍は、鈍い音を立てて砂丘を踏み荒らす軍馬の蹄のように、いつまでも我々の脳髄の中で木霊するのだ。

2 伝説

傑作である前作『STORMBRINGER RULER -The Legend of the Power Supreme-』(2001)での成功、加えてヒロイックかつファンタジックなエピック・メタルを極限まで砥いで完成させたドミネは、一部のエピック・メタル・ファンより絶大な支持を獲得するに至った。ファンが支持し、ドミネが完成させた唯一無二のエピック・メタルこそ、古典的なヒロイック・ファンタジーの正式な再現であった。
前作の利点をすべて踏襲し、更なる芸術性を極めたのが本作『Emperor of the Black Runes』である。作品のタイトルには、当然の如く、前作でもコンセプトとした"メルニボネのエルリック(Elric Of Melnibone)"の要素が用いられている(マイケル・ムアコックの原作『永遠のチャンピオン』において、「黒きルーンの皇帝」とはエルリックを指しており、エルリックは一万年の歴史を持つメルニボネ帝国の最後の皇帝として君臨し、エルリックの持つ黒き剣(Stormblinger)には無数のルーン文字が彫られている)。
勇壮な世界観をヒロイック・ファンタジーの古典から受け継ぎ、本作も詞世界には殆どヒロイック・ファンタジーが用いられている。"The Aquilonia Suite - part I"で題材としているのはジョン・ミリアスの映画『Conan the Barbarian(邦題:コナン・ザ・グレート)』(1982)であり、また"Icarus Ascending"では有史以前のギリシア叙事詩を題材とし、正統派エピック・メタルの伝統に忠実に沿っている。『エルリック・サーガ』を題材とした"The Song of the Swords"では、魔剣を操る二人の英雄に焦点を当て、戦いに特化した空想的な世界観を再現し、エピック・メタルにおけるヒロイズムの重要性を説いている。我々はそれらを真摯に受け止め、尚且つエピック・メタルの持つ至高の陶酔感に浸らなければならない。
サウンド面は大化けしている。ギターソロの充実、圧倒的な疾走感、楽曲を構築する重厚感が著しく向上していることは既に明らかであり、ドミネ特有の悲壮感を感じさせるメロディや、劇的な緩急を用いたプログレッシブなドラマ性も見事なまでに表現されている。これらは傑作であった前作を大きく凌駕する内容である。作品全体としての一体感、統一感までも尋常ではないほどに高度なものとなり、各楽曲に描かれた幻想が視覚を刺激するレベルにまで到達している。ここまで剣と魔法の世界を表現したエピック・メタルは他にはなく、 本作を持って、まさにドミネは神格化したといえるであろう。"And justice is done(そして正義は果たされた)"


〜Epics〜

・「剣と魔法」
・『メルニボネのエルリック』 / マイケル・ムアコック
・『紅衣の公子コルム』 / マイケル・ムアコック
・『コナン』 / ロバート・E・ハワード
・ギリシア神話

マイケル・ムアコックの"永遠のチャンピオン"から多大な影響を受けた叙事詩的な内容。その他、「剣と魔法」の世界観に徹底して傾向を示す。


〜Tracks〜

1. オーヴァーチュア・モーテイル
Overture Mortale
クラシカルかつ荘厳なオープニング。前作同様、脅威と興奮の世界への幕開けといったところであろう。ちなみにモーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」をアレンジするという高度な技を用いている。

2. バトル・ゴッズ
Battle Gods (of the universe)
ドミネの定番である激烈な疾走曲。勇壮なメロディ(極めて英雄的な)を伴い、騎士のように疾走する様はもはや筆舌に尽くしがたい。さらに今回は重厚なバッキングが加わり、よりリアリティを持った伝説の世界を表現することに成功している。題材は中国のヒロイック・ファンタジー映画『The Legend of ZU』であるという。

3. アリオッチ、ザ・ケイオス・スター
Arioch, the Chaos Star
聴き手が打ちのめされるに相応しい強烈な一撃。多元宇宙における混沌の王アリオッチ(Arioch)を歌った、幻想と怪奇の渦巻くおぞましい楽曲である。"Battle Gods (of the universe)"と同等か、それ以上の激烈な疾走感を誇っており、サビの猛烈な勇ましさと驚異的な荘厳さには絶えず圧倒される。途方もなく壮大な世界である。

4. アキロニア組曲 パート1
The Aquilonia Suite - part I
ヒロイック・ファンタジー史にその名を残す映画『Conan the Barbarian(邦題:コナン・ザ・グレート)』(1982)のサウンドトラックからの引用を含む、およそ14分にも及ぶ超大作である。栄光に満ちた古代世界を思わせるような荘厳な曲調、大仰極まりない曲展開により、聴き終えた後には英雄の如き興奮と高揚感を味わうことが可能となる。この展開はまるで映画のようだ。メロディはヒロイックの一言に尽きる。特にクライマックスでの感動的なギターソロ・パートが興奮を最高潮にまで押し上げる(このソロは、映画でコナンとヒロインのヴァレリアとの愛を歌った、感動的なテーマ・メロディのものである)。

5. 紅衣の公子
The Prince in the Scarlet Robe (the three who are one - part I)
「一五次元界」の英雄、紅衣の公子コルムを歌う英雄的なコーラスが感動を誘う壮大なバラード。中世を思わせる、モービィの勇ましい熱唱がこれでもかというほど胸を打つ。攻撃的な"The Aquilonia Suite - part I"の後に静かな曲を持ってくる繊細さも素晴らしい。彼らのバラードでは最高の完成度であろう。

6. イカルスの飛翔
Icarus Ascending
前半の哀愁漂う雰囲気とは一線を画す陽気な楽曲。古代ギリシアのイカロスの自由への探求を叙事詩的に描いている。決して平凡なわけもなく、勇ましくかつエピカルに仕上がっている。このアルバムには捨て曲はない。

7. ザ・ソング・オブ・ザ・ソード
The Song of the Swords
勇壮な疾走曲。ストームブリンガーとモーンブレイドという二振りの剣につて歌っている。独特の雰囲気を放ち、幻想の中へと聴き手を誘う。剣と魔法の世界を忠実に再現したエピック・メタルである。後半のケルティックなギターソロは古代の勇者を思わせる勇ましさ。

8. ザ・サン・オブ・ザ・ニュー・シーズン
The Sun of the New Season (an homecoming song)
"The Aquilonia Suite - part I"には及ばないが、幻想的な大作。冒険物語のような、徐々に盛り上がっていく展開はドラマティックだ。勇壮かつ重厚な鋼鉄の響きによって、異世界に入るような感覚さえ覚える。女性ゲスト・ヴォーカル、リーナン・シドハとモービィのハーモニーも繊細。

9. トゥルー・ビリヴァー
True Believer
名曲として名高い熱き疾走曲。大仰極まりない疾走とシャウトの連打により、凄まじい勇ましさを感じることができる。楽曲の衰えなさは、正直疲労に値する。

10. ザ・フォレスト・オブ・ライト
The Forest of Light
ラストの静かなバラード。アルバム全体を通して、これらの物語を思わせる全体の構成が、やはり最後に胸を打たれるのであろう。この楽曲には、永遠の戦士が戦いを終え、永遠の都──ムアコックの世界ではタネローンと呼ばれている──で静かな平安を得る姿が想像できる。


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