The Legend Of Domine

3rd

Stormbringer Ruler -The Legend of the Power Supreme-(in 2001)


Stormbringer Ruler
LEXICON
Reviews / Epics / Tracks

〜Reviews〜

「母よ、私の時代が来た。父よ、私の日々は過ぎ去る」
──Dawn of a New Day──


1 ドミネの登場

歴史的に極めて珍しい事態だが、ラプソディーなどのエピック・メタル・バンドを産んだイタリアでは、叙事詩的なヘヴィメタルに対する注目が一度に集まっていた。その状況下にあるイタリアで傑出して頭角を現したのが、現地で名立たる古豪のDOMINE(ドミネ)だった。 ドミネは激烈にヒロイックな正統派メタルを軸にして、荘厳なシンフォニーやコーラスの多様といった、まさに典型的なエピック・メタルの音楽のスタイルを貫くバンドだった。
ドミネに関して特筆すべき点は幾つもあり、要所はヘヴィメタルに対する情熱、《剣と魔法の物語(ヒロイック・ファンタジー)》の世界観に対する憧憬を滲ませんばかりの疾走曲は、真に熱いの一言に尽きる。それは正式名『STORMBRINGER RULER -The Legend of the Power Supreme-』と題されたドミネの第3作目の楽曲群にも顕著に表れているが、詞世界は主にヒロイック・ファンタジーであり、中でもイギリスの小説家マイケル・ムアコック(*注釈)の『Champion Eternal(邦題:永遠のチャンピオン)』には相当の思い入れがあるようだ。この物語は現在でも世界中にファンを持つ、ヒロイック・ファンタジーの歴史の中でも類を見ない大傑作である。本作のアルバム・ジャケットに大仰なまでに描かれているのは、その英雄エルリック以外の何物でもない。このアルバム・ジャケットには、エルリックの活躍する世界「新王国」が《混沌》に支配され、空は地獄のような紅に染まり、《運命の角笛》を握りしめたエルリックが、まさに一つの時代の終わり(The End Of An Era)に立ち会うという、壮絶な場面が描かれている。
少し昔の話をするが、かつてエピック・メタル界にもマイケル・ムアコックの世界観に傾倒し、エルリックを題材としたカヴァー・アートワークを作品に頻繁に用いていた、CIRITH UNGOL(キリス・ウンゴル)というバンドがいた。キリス・ウンゴルは正統派メタルをベースに大仰かつドラマティックなエピック・メタルを作り上げた、このジャンルの第一人者だった。そして、ドミネのコンセプト、及びサウンドを見る限りでは、一致する部分が多くあり、まさに正統継承者と言って良いだろう。

2 世界観の追及

当然の如く、このアルバムはあまりにも素晴らしいアルバムだ。エンリコ・パオリ(Enrico Paoli:g)本人のプロデュースによる本作は、壮大かつ勇壮で、聴いていて熱いものが込み上げてくる。本当に男らしく、真にヒロイックなエピック・メタルが好きな者ならば、このアルバムは嫌いにはなれないはずである。ファンはドミネの熱い鋼鉄の信念に対し、敬意を表するべきなのである。
ドミネの気高い信念は、本作のコンセプトに表れている。アルバム・コンセプトは前述したように、ドミネが愛してやまない"永遠のチャンピオン"であり、"Horn of Fate"、"The Bearer of the Black Sword"、"For Evermore"、"Dawn of a New Day"は、「Elric Of Melnibone」という伝説の最終章からインスパイアされたものだ。ドミネは大胆にもエルリック・サーガの伝説的な最終章を、伝統的なエピック・メタルで再現しようとしたのだ。
そして、勇壮に疾走するヘヴィ・メタリックなリフと、荘厳なシンフォニーによって、見事にこの物語は大々的に表現され、本作の目的は達成されたのである。何よりも、エルリックが合わせ持つ独特の悲壮感が完全に表現されている様には、ファンも本当に驚くばかりだった。収められた楽曲はどれもヒロイックかつ重厚なものばかり。そこに大仰なドラマ性も加わり、まさに、ドミネ独自のエピック・メタルが展開されている。 ケルティックなギター・ソロも魅力的であり、神話的なヒロイズムを表現することに大きく貢献している。また、ヴォーカリストのモービィ(Morby:vo)の歌い上げるハイトーン・シャウトも圧倒的な実力で聴き手に迫ってくる。本作のゲストであるBEHOLDERのリーナン・シドハとのヴォーカ・ルハーモニーも非常に良い演出であり、エピック・メタルに優雅さを加える要因となっている。もう1つ、この作品の素晴らしい語り(ナレーション)は、POWER COURTのヴォーカル、ダニー・パワーズが担当している。よくここまで徹底できるものだ。

3 作品の完成

──忘れ去られた《剣と魔法の物語》を描くエピック・メタルの一派が、未だに死に絶えていないことを、新しいヘヴィメタルの時代に体現したドミネの行為は、間違いなく偉業ととれるものだ。この壮絶なコンセプトの一部に記された"The End Of An Era(一つの時代の終わり)"という言葉は、ドミネがヒロイック・ファンタジーを起源とするエピック・メタルの歴史に終止符を打ったことを物語っている。随分と長い時間をかけて、ようやくエピック・メタルという特異な分野は、納まるべき最上の鞘を見出した。しかし、その完成形が現れようとも、神話の中の魔術師のように、エピック・メタルという分野に魅せられた探求者たちの冒険は、果てしなく続いていくこととなる。

*注釈:Michael John Moorcock(1939〜)。イギリスのSF、ファンタジィ作家。彼の作り上げた一連の個性的なヒロイックファンタジー作品は、「アンチ・ヒロイック・ファンタジー」として新たなジャンルを切り開いた。代表作は『グローリアーナ』、『永遠のチャンピオン』シリーズ。また音楽活動も行っている。


〜Epics〜

・北欧神話
・「剣と魔法」
・『メルニボネのエルリック』 / マイケル・ムアコック
・『デューン/砂の惑星』 / フランク・ハーバート

本作は、メイン・コンセプトにマイケル・ムアコックの『メルニボネのエルリック』を選択。その他、フランク・ハーバートの小説などにも影響を受ける。


〜Tracks〜

1. ザ・レジェンド・オブ・ザ・パワー・スプリーム
The Legend of the Power Supreme
怪しげなナレーションから始まるプロローグ。剣と魔法の世界に誘われるかのような雰囲気が何とも言えない。また、後半には、本作の物語の鍵となるメロディが登場する。

2. ザ・ハリケーン・マスター
The Hurricane Master
ハリケーン・マスター("嵐の支配者"という意味。始めは楽曲の解釈に迷ったが、ストーム・ブリンガーで"嵐を呼ぶ者の支配者"となるため、ここでの意味は前者)、エルリックを歌った名曲。かつて彼は、魔術で嵐を呼び、宿敵であるパン・タンの大魔術師、セレブ・カーナを打ち破った。その壮絶な世界観は楽曲にも顕著に表現されており、大仰極まりないヒロイックなメロディが激烈に疾走する。全てを叩き潰さんとする勇壮さはあまりにも熱い。まさにエルリックが剣を握りしめ、混沌の軍団に一人で立ち向かうかのような、決死のヒロイズムを表現している。

3. ホーン・オブ・フェイト
Horn of Fate (The Chronicles Of The Black Sword - The End Of An Era Part II)
オープニングの勇壮なケルト系のメロディから、壮大な剣と魔法の世界が描かれる重厚な楽曲。《運命の角笛》を吹き鳴らさんとするエルリックの勇士が描かれた楽曲でもあり、彼は世界を終結させるために、その角笛を三度鳴らさねばならない。それこそが彼にのみできる使命であり、運命なのである(エルリックが角笛を手にする前、それは異次元の勇者ローランが持っており、エルリックは戦いの末に角笛を奪い去った)。悲壮感に満ち、どこか勇ましい後半の劇的な展開には度肝を抜かれる。まさに"永遠の戦士"、エピック・メタルという言葉が相応しい楽曲である。そして、とにかくメロディがいちいち勇ましい。

4. ザ・ライド・オブ・ザ・ヴァルキリーズ
The Ride of the Valkyries
"ヘヴィメタルの父"リヒャルト・ワーグナーの有名なオペラ「ワルキューレ」をモチーフにした楽曲、らしいのだが、ギター・ソロの部分以外はほとんどが自作だと思われる。ワーグナーには失礼だが、ドミネの本曲の方がワルキューレらしい。ドミネが作曲した部分が際立っている。本曲の勇壮さは素晴らしい。

5. トゥルー・リーダー・オブ・メン
True Leader of Men
"The Hurricane Master"を彷彿とさせる、ヒロイック極まりない疾走曲。フランク・ハーバートの小説『惑星デューン(Dune)』を題材とし、その物語の中の戦いについて記された楽曲である。とにかくドミネの楽曲は、大仰なまでにヒロイックなメロディを叩きつけるものが多く、ヒロイック・ファンタジー小説が体の芯まで沁み込んでいるファンには、耐えられないほどの高揚感が襲ってくる。本曲のコーラスの展開がまさにそうで、もはや、やり過ぎとまで思える。

6. ザ・ベアラー・オブ・ザ・ブラック・ソード
The Bearer of the Black Sword(The Chronicles Of The Black Sword - The End Of An Era Part I)
アルバム中間部に配置された、今作のコンセプトの第一章目の楽曲。物語を掻い摘むと、人類の誕生以前に鍛造された魔剣、ストーム・ブリンガーと、それを担う者エルリックについて描かれている。彼は数多の名で呼ばれ、旅を続けてきた。今や彼に真実と謎が明かされ、彼は《法》と《混沌》の間で最後の戦いを行わなければならない。楽曲としては、ギター・メロディに重点を置いたミドル・テンポだが、といっても勇壮かつもの悲しいメロディのせいで、他の楽曲と大差のないほどヒロイックに仕上がっている。本曲はドミネ本来の劇的さがよく表現されており、息を飲むかのような緊張感の漂う展開を有している。

7. ザ・フォール・オブ・ザ・スパイラル・タワー
The Fall of the Spiral Tower
他の曲に比べるとやや平凡な楽曲かも知れないが、後半のケルティックなギター・ソロは絶品。曲調も勇壮で非常に好感が持てる。メロディに関しては、ケルティックな雰囲気が存分に漂っている。

8. フォー・エヴァーモア
For Evermore(The Chronicles Of The Black Sword - The End Of An Era Part III)
バラード。これまでの楽曲で息をつく暇が全くなかったので、そのためかと思われる。出来が特別良いわけでもなく、他の楽曲に隠れて印象も薄い。

9. ドーン・オブ・ア・ニュー・デイ
Dawn of a New Day - A Celtic Requiem (The Chronicles Of The Black Sword - The End Of An Era Part IV)
この伝説の最後を締め括る、およそ10分にも及ぶ凄絶な大作。本作の重要な場面を繋いできたエルリックの一大叙事詩は、悲劇的でありながらも感動的な結末を迎える。遂にエルリックは、運命によって定められた行為を成し遂げ、宇宙のサイクルが完了する。彼は新たな世界が始まるのを見る。そして、全てが失われ、新たな一日の夜明けが訪れる(Dawn of a New Day)。それは彼自身の死に他ならず、彼もまた古い世界と共に滅びゆく運命だった。結局のところ、この壮大な叙事詩が物語っているものは、全宇宙の構造(パターン)であり、人類の全ての世界もまた、構造(パターン)ということなのである。ドミネの挑戦は偉大だった。世間では長過ぎるなどと欠点ばかり言われているが、ドラマティックな構成面は抜きん出ている。オープニングでの壮大な勇士のメロディが、メインで繰り返されるパートを聴いたときの感動は、計り知れない。ラストのコーラスを繰り返すパートでは、エルリックが混沌との巨大な戦いを終え、自らもまたその命が尽き、荒野に横たわる姿が目に浮かぶ。一つの伝説が終わった瞬間を感じる、尊い時間だ。この歴史的な達成感を解き放つ長大なエピック・メタル大作は、『STORMBRINGER RULER -The Legend of the Power Supreme-』以外にはない。


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