The Legend Of Domine

2nd

DragonLord(Tales from the noble steel)(in 1999)


DragonLord
LEXICON
Reviews / Epics / Tracks

〜Reviews〜

イタリアのフィレンツェ出身のドミネは、唯一のオリジナルメンバーであるエンリコ・パオリ(Enrico Paoli:g)とリッカルド・パオリ(Riccardo Paoli:b)の兄弟に率いられたバンドであり、一貫性のあるサウンドをファンに提示し続け、伝統的なエピック・メタルをドラマティックに創造してきた。一部のカルト的なエピック・メタルのマニアたちから多大な支持を受けたバンドは、1983年の結成後、一時は活動休止に追い込まれたが、不屈の闘志で幾度となく再起した。ドミネのサウンドは、サボタージュ(SABOTAGE)のシンガーだったモービィ(Morby:vo)の加入によって大幅に変化し、伸びのあるハイトーンを武器にして、イタリアン・メタル・バンドが頻繁に陥る、ヴォーカルの難点から脱出することに成功した。オペラティックなコーラスやヒロイックなギター・ソロを多用する箇所も、バンドの大きな特徴だった。

ドミネの第2作『DragonLord(Tales from the noble steel)』は、長々と題された正式名のタイトルからも分かるように、コンセプト・アルバムの手法を採用していた。一般的に《剣と魔法の物語》と呼ばれる、古代の魔法が支配し、剣が猛威を振るう様々な時代を主な舞台として、本編の楽曲は成立した。幻想的なアルバム・タイトルが物語っているように、"メルニボネのエルリック"(*注釈)が作品のメイン・コンセプトだった。ドラゴン王(DragonLord)とは『永遠の戦士』である主人公、エルリックのことに他ならない。ドミネの《剣と魔法の物語》に対する思い入れは相当なものであり、この後のアルバムにもその傾向は顕著だった。

本作は雄大なヒロイック・ファンタジーのコンセプトに忠実であり、シリアスな作風を貫き、徹底して作られている。この手の音楽に必要な語り(ナレーション)、SEの導入など、エピック・メタルの愛好者には御馴染みの内容が登場する。また、今回はキーボード奏者として新たにリッカルド・イーアコーノ(Riccardo Iacono:key)が迎えられており、バッキングでも重厚感が増している。ケルト音楽に通じる幻想的な音色も使いこなし、まさにそれらしい世界観を描いている。ギター・サウンドは伝統的な正統派メタルの流派を踏襲しており、ヘヴィメタリックなリフや情熱的なギター・ソロが高揚感を高めていく。これらの要素は非常に荒々しく、またヒロイックであり、典型的なエピック・メタルを名乗るに相応しい出来だった。楽曲の完成度の高さから、地元イタリアでこの『DragonLord(Tales from the noble steel)』が"ALBUM OF THE MONTH"に選出されたのは必然的な結果だった。

本作にてドミネは、既に絶対的な個性というものを開花させている。過去のバンドたちを調べても、ここまで剣と魔法の世界を忠実に再現したエピック・メタルはあまりなかった。なぜなら、その大半は気高い理想に反して、チープなサウンドに収まっているからだ。しかし、ドミネは驚くべき内容を『DragonLord(Tales from the noble steel)』の中で披露し、かつての常識を覆した。ある種、本作はヒロイック・ファンタジー系のエピック・メタルの一つの到達点ともいえる内容だった。 エピカルで劇的にヒロイックなヘヴィメタルを探していて、妖艶な幻想世界に浸りたいのなら、このアルバムは迷わず買うべきリストに含まれるだろう。

*注釈:原題「Elric of Melnibone」。 エルリックとは、マイケル・ムアコックが創造したヒロイック・ファンタジー巨編『永遠のチャンピオン』シリーズの中の《エルリック・サーガ》における主人公の名。またメルニボネというのは、物語の舞台である新王国が勃興する以前に、一万年に渡り世界を支配した世界の中心に位置する、竜の島のことである。エルリックはメルニボネに生息する人類とは異なる人種《メルニボネ人》であるため、このような命名をとる。


〜Epics〜

・「剣と魔法」
・『メルニボネのエルリック』 / マイケル・ムアコック

この分野の始祖キリス・ウンゴルに代表されるマイケル・ムアコックの世界観への傾向、及び「剣と魔法」から影響を受けた歌詞が全編を支配する。


〜Tracks〜

1. 宣戦布告
Anthem (A Decloration of War)
先述したように、《剣と魔法の物語》の世界を描く幻想的なイントロダクションである。戦いが始まる様の緊迫した雰囲気を漂わせる。

2. サンダーストーム
Thunderstorm
モービィの超絶なハイトーンが炸裂する名曲。タイトルでもある歌詞「Thunderstorm」を連発するパートのインパクトは絶大。その部分が「チャンダァァァァストォォォォム」と聴こえるのも凄まじい。この時点で既にシリアスな緊張感が絶えない。爆発力に満ちており、素晴らしいカタルシスを感じさせる。また、高速のドラムと共に刻まれるリフも漢らしさを感じさせる。

3. ラスト・オブ・ザ・ドラゴンロード
Last of the Dragonlords (Lord Elric's Imperial)
メルニボネのドラゴン王の最後を歌う叙事詩である。最強のドラゴンたちが高く飛ぶ時、彼は最期を遂げるであろう。邦題は「エルリック軍の進撃」。実に大胆な訳をしたものだ。ミドル・テンポながら非常にヒロイックな雰囲気が漂う楽曲であり、エピック・メタルらしい緊張感に満ちている。サビでのエルリック軍の進撃を思わせるコーラスは実に秀逸。何度でも聴きたいメロディーである。また、中間部のギター・ソロも素晴らしく、英雄の長い道程を想像させられる。

4. ブラッド・ブラザーズ・ファイト
Blood Brothers' Fight
メタリックなギター・リフがザクザクと幻想的なキーボードの中で刻まれる佳曲。ヴァースへの流れは、ヒロイックなヘヴィメタルらしい。途中でのテンポ・チェンジ、及びケルティックなギター・メロディの導入などドラマ性も高い。

5. ディフェンダー
Defenders
古代世界の威厳を伴って疾走を繰り返す名曲。高速のメタリックなリフに、ドラマティックな歌パートが繋がる部分は胸を打つ。キーボードも幻想的に絡み、唯一無二の世界を描く。後半の劇的なテンポ・チェンジから雄々しい掛け声への流れには、戦士の闘争本能が呼び起こされる。サビでの荘厳なコーラスは素晴らしく勇ましい。ラストの超絶なハイトーンの咆哮も身を震わせる。

6. 軍神マーズ
Mars, the Bringer of War
不気味な語りが始まるインストゥルメンタル。これは調べた結果、エルリックが地獄の公爵アリオッチに助力を求める場面であるらしい。

7. ドラゴンロード
Dragonlord (The General Master of the Mightest Breasts)
新王国にて行われる数々の戦争、千もの戦場を駆けるエルリックの波乱の戦いを物語る。彼は黒き剣の使い手であり、光の帝国メルニボネの王子、そして、ドラゴンの王として運命(フェイト)によって定められている。この楽曲は、その悲壮なる英雄エルリックのメイン・テーマ。壮絶な大作である。まさにエルリックの世界観を限りなく表現した、雄大な名曲。オープニングとラストに配置されたシンガロング・コーラスの勇ましさは天にも昇る。女性コーラスが入る箇所は絶品。メロディと行進曲調が一体となり、ヴァースからコーラスへの雄大な流れは、恰もチャンピオンたちの剣と魔法の戦いを傍観しているかのような錯覚に陥る。劇的な展開は終盤にも配置されており、圧倒的なヒロイズムを放つ壮大なギター・ソロから、王国調のリズムへの展開を聴いた時、あなたは架空のチャンピオンになっている。

8. 神々の炎
Uriel, the Flame of God
勇壮なギターが絡み合う佳曲。ダークな雰囲気は果てしなく妖艶に響く。

9. シップ・オブ・ザ・ロスト・ソウルズ
Ship of the Lost Souls
重く暗い雰囲気が支配したエピック・ナンバー。

10. ザ・バトル・フォー・ザ・グレート・シルヴァー・ソード
The Battle for the Great Silver Sword(A Suite in VII parts Opera III)
全7章から構成される巨大なオペラ。およそ10分以上にも及ぶ雄大な大作である。かの有名な『アーサー王伝説』にインスパイアされた内容。この物語は15世紀になってまとめられたが、実際にはその1千年も前に存在していたという。これは中世時代が本格的に幕を開ける前時代のことであろう。本曲では、暗黒時代の陰鬱なる世界観を、古代と中世を掛け合わせたような絶妙なムードを表現しており、バンドの叙事詩的な描写センスを見せる。特に、混沌の神に対し騎士が聖剣を懇願するパートでもある、サビ前の高潔かつ大仰なモービィの熱唱が、途轍もない勇ましさである。目まぐるしく紡がれるギター・ソロもそうだが、実に英雄的なメロディを惜しみなく導入している。しかし、本曲が冗長であるという批判を受けることも多い。


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