The Legend Of Cirith Ungol

1st

Frost And Fire(in 1980)


Frost & Fire
LEXICON
Reviews / Epics / Tracks

〜Reviews〜

「史上最悪のヘヴィメタル・アルバム」
──Heavy Metal Encyclopedia──


"エピック・メタル(EPIC METAL)"と称される大仰なヘヴィメタルの起源は、マニラ・ロードの『Invasion』(1980)かキリス・ウンゴルの『Frost & Fire』にあると考えられている。何れもアメリカのアンダーグラウンドから登場したマニアックなバンドであり、その名は一部の地域を除いては殆ど知られていなかった。影に覆われた暗い歴史のように、音楽業界の表舞台で華やかな授賞式が催されていたその地下で、彼らは辛酸を舐め、葛藤を乗り越え、どんよりとしたこれらの歴史が幕開けた。80年代初期、ロックから正当に進化したヘヴィメタルが地下で更にプログレッシブに変容されていくと、大仰なドラマ性を追求する独自のスタイルが誕生し始めたのである。

マニラ・ロード、ヴァージン・スティール、マノウォーと並びエピック・ヘヴィメタルの四天王の地位に君臨した米カリフォルニアのキリス・ウンゴルは、1972年に結成された。イギリスの小説家、J・R・R・トールキンの『指輪物語』からバンド名を拝借したキリス・ウンゴルは、グレッグ・リンドストーム(Greg Lindstrom:g)、ロバート・グレイヴン(Robert Garven:d)、ティム・ベイカー(Tim Baker:vo)を中心に活動し、イギリスのバンド、ホークウィンドの提示した前衛的なプログレッシブ・ロックのスタイルに影響を受けた。幻想文学の小説が聖書であったキリス・ウンゴルのメンバーたちは、その方向性を作品に持ち込むことに何ら抵抗はなかった、という。

1980年、キリス・ウンゴルの第一作『Frost & Fire』が発表された。本作には興味深い話がある。米ファンタジー・アートの巨匠、マイケル・ウェーラン(*注釈)が描いた、イギリスの作家マイケル・ムアコックの代表作『ストームブリンガー(Stormbringer)』のカヴァー・アートワークは、どの角度から拝見しても素晴らしい出来だ。意外な事実では、キリス・ウンゴルは始めフランク・フラゼッタを起用しようと考えていた。しかし、同国のサザン・ロック・バンド、モリー・ハチェット(MOLLY HATCHET)に先を越されてしまった。キリス・ウンゴルはアルバム・ジャケットの案で揉めたが、マイケル・ウェーランが好意的な態度でイラストの使用を許可したため、ここに『ストームブリンガー』のオリジナル・ハードカバーとヘヴィメタルとの画期的なコラボレーションが実現するに至った。これはヘヴィメタルとヒロイック・ファンタジーの最初の出会いであった。エピック・メタル史において重要な出来事であり、ファンタジックなイメージを持つアートワークとエピカルなサウンドは、二つで一つとなることを選んだのである。後にグレッグ・リンドストームは、キリス・ウンゴル史における最良のアルバム・カヴァーとして、本作『Frost & Fire』のカヴァーを選出している。

楽曲の面では、グレッグ・リンドストームが全面的に関わり、後にカルト的と称される特異なヘヴィメタルを生み出した。特にティム・ベイカーの奇声を張り上げるようなヴォーカル・スタイルは凄絶であったが、一般層からは強烈な嫌悪で持って避けられた。本作が発表されたのが未だヘヴィメタルのサウンドが完全に確立されていない時代でもあり、『Frost & Fire』は音質面で決定的な欠陥を残していた。しかし、世界各地のファンの反応は好意的であった、とキリス・ウンゴルのメンバーは証言を残している。この時代において、幻想文学の世界観に傾倒したエピカルなヘヴィメタルのスタイルは斬新であったようだ。このスタイルが"エピック・メタル"と称されるに至るには、マニラ・ロードの登場を待たなくてはならなかった。

『Frost & Fire』の収録曲の内容には差が生じていた。アップ・テンポで突き進む"Frost and Fire"は名曲と呼ぶに相応しく、キリス・ウンゴルの追求するヒロイックかつファンタジックな世界観が表現された記念すべき楽曲である。エピカルなムードをメロディアスに発散した"I'm Alive"やインストゥルメンタルの"Maybe That's Why"なども魅力的だが、その他の楽曲はサウンドがチープさを極めており、御世辞にも高く評価できるものではなかった。飽くまでマニア向けの、地下の薄暗いムードが充満するアンダーグラウンド音楽に過ぎなかった。潔く歴史を振り返れば、恐らくこれがエピック・メタル史の始まりであったと思う。なお本作の経歴は「Enigma Records」によって1981年に再発、「Metal Blade Records」によって1999年に再発、である。

*注釈:Michael Whelan。アメリカ合衆国のイラストレーター。ファンタジィ、SFアートワークの重鎮として世界的に有名。ロバート・E・ハワードの『蛮人コナン』シリーズ、エドガー・ライス・バロウズの『火星』シリーズ、『ターザン』シリーズなどの幻想的な挿絵を得意とする。


〜Epics〜

・「剣と魔法」

世界観には「剣と魔法」からの影響が窺えるが、完全に叙事詩的な内容を描いているわけではない。


〜Tracks〜

1. フロスト・アンド・ファイア
Frost and Fire
エピック・メタルというジャンルのカルト的な幕開けを物語る、キリス・ウンゴルの歴史の記念すべき第一曲目。ヒロイックさを湛えたリードギターのメロディ、薄くギャロップするリズムなど魅力は非常に多い。

2. アイム・アライヴ
I'm Alive
以外にもヒロイック・ファンタジー的内容で衝撃を与える。中間部のソロ・パートの音色は絶品。非常に今日のカルト・エピック・メタル、またその原形に近いといえる楽曲だ。展開にも静と動を設けるなど、大仰さとドラマ性が見え隠れしている。雰囲気もシリアスなもの。

3. リトル・ファイア
Little Fire
特筆すべき点はない。

4. ホワット・ダズ・イット・テイク
What Does It Take
コンピューター・ゲームのようなファンタジックなエフェクトを盛り込んだ興味深い楽曲。何処かRPGゲームを思わせる部分がある。

5. エッジ・オブ・ア・ナイフ
Edge of a Knife
やや歌い回しがファニー。

6. ビフォア・オフ・デッド
Better off Dead
メタルらしくない、古典的なロック。

7. メイビー・ザッツ・ホワイ
Maybe That's Why
インストゥルメンタル。冒頭から永遠と続く悲壮感に満ちたメロディはドラマティックといえよう。ラストのファンタジックなパートは多少耳を奪う。

8. キリス・ウンゴル
Cirith Ungol
ボーナストラック。


 >>BACK...

Copyright (C) 2009-2012 METAL EPIC JAPAN All Rights Reserved.

inserted by FC2 system