クリスチャン・エピック・メタル

Christian Epic Metal

著者:Cosman Bradley
翻訳:METAL EPIC

The Father of Epic Metal

神の聖座と王政とにむかいし
不虔の軍、驕傲の戦を天に
むなしく挙げた。
至強者かれを
焔しつつ倒に清火天より
おそるべき墜落、燃焼をくはえて
底なき滅亡に投げおろした、そこにて
金剛の鎖、劫苦の火に住むべく、
かの全能者を戦にいどみしものを。
──ミルトン──


History:

 ローディアン・ガードは後にクリスチャン・エピック・メタル(Christian Epic Metal)というヘヴィメタルのサブ・ジャンルを開拓する──アメリカのロサンゼルスで誕生し、ヘヴィメタルに追い風が吹いた80年代、一部の地域でカルト的な人気を誇った伝説のエピック・メタル・バンド、ウォーロード(WARLORD)。創設メンバーのギタリストの名は"デストロイヤー"、本名をウィリアム・チャミス(William j.Tsamis)という。ウィリアム・チャミスはウォーロード時代、同じく創設メンバーであるマーク・ゾンダー(Mark S Zonde)と共に過激な偽名を使い、一度もライブを行わないという異例のスタイルで極めて神秘的なバンド・イメージを確立することに成功した。しかし、1986年にウォーロードが新しいヴォーカリストを探す苦行の果てに活動を停止したことをきっかけにして、本格的に哲学、神学の学業へと専念するようになる。ヘヴィ・メタル・バンドのギタリストという表舞台での活躍とは裏腹に、ウィリアム・チャミスには大学教授になるという別の目標が存在していたのである。真実では、ウィリアム・チャミスの哲学及び神学に対する関心は、実の父親の突然の死が要因の一つであった。この頃、ウィリアム・チャミスは精神的に病み疲れており、ジャン=ポール・サルトル(*注釈1)のような哲学者と意見が一致していた。西洋の芸術家に死後突然襲い掛かる皮肉であるように、ウォーロードは解散後に人気が爆発した。ウォーロードの解散前と後に発表されたコンピレーション『Thy Kingdom Come』(1986)、『Best of Warlord』(1989)は、ウォーロードに対するファンのリスペクトを表し、また当時を経験していないファンに捧げられている。ウォーロード、即ちウィリアム・チャミスは、ヘヴィ・メタル・シーンに帰ってくるのかどうか疑問であった。死んだ恋人を待つように、長い歳月が流れた。一度、ウォーロードの古いファンはウィリアム・チャミスがヘヴィメタルのシーンに復帰しないのではないかと危ぶんだが、1995年、ウィリアム・チャミスは新しいバンドと共に帰還を果たすことになる。ローディアン・ガード──キリスト教に関する神学を本格的に学び終えたウィリアム・チャミスが、芸術的な創作活動に没頭するためのバンドであった。長い探求の末、ウィリアム・チャミスは聖人パウロ(*注釈2)の言葉に辿り着いた。伝説では聖人パウロは、ローマ帝国の監獄で死刑を待つ間にこれらの言葉を書いたのだという。常しえの暗闇の中に一筋の光を見出す奇跡のように、フィリピ書4章11節(*注釈3)に精神の平和を見出したのだ。爾来、ウィリアム・チャミスは敬虔なクリスチャンとしてローディアン・ガードのエピック・メタルを創造していくことになる。最初のうち、ウィリアム・チャミスは自らがバンドのヴォーカルを務めたが、後に専任ヴォーカリストとして妻ヴィダン・セイヤー・リメンシュナイダー(Vidonne Sayre Riemenschneider)を迎えることでサウンドが完成した。ローディアン・ガードのサウンドは、天使の羽のように艶やかなものであった。ジョン・ミルトンの『失楽園(Paradise Lost)』、ホメロスの『イーリアス(Ilias)』及び『オデュッセイア(Odyssea)』にインスパイアを受けた果てしなく深遠なエピック・ヘヴィメタルを構築した第一作『Lordian Guard』は、地下より響く天上の調を優美に、神々しくも奏でている。アルバム・カヴァーには匿名の画家が描いた古カトリック主義に傾倒した絵画(*画像上)が用いられており、これらはミカエル(別名:マイケル、ミシェル)の軍勢と神の王座を表している。バンド名の由来は絵画に集約された。即ちローディアン・ガードとは、ミルトンの『失楽園』において、ミカエルの天使たちの軍勢を表した崇高な言葉であるのだ。ローディアン・ガードの世界では、叙事詩的なヘヴィメタルを作るためにクロウリー(*注釈4)やラブクラフトを引用することはない。ローディアン・ガードの音楽的本質は中世/ルネッサンスにあり、題材とする普遍的なテーマはキリスト教における天国の叙事詩である──やがて真のカルト・エピック・メタルのファンは目にすることであろう。神々しい至福の調の中において、天使たちが幼子のようにあられもなく戯れる荘厳の様を。やがて真のカルト・エピック・メタルのファンは味わうことであろう。堕落した悲劇の『失楽園』の中において、アダムとイヴが食べた禁断の果実の禁忌の味を。

*注釈1:Jean-Paul Charles Aymard Sartre(1905 - 1980)。フランスの哲学者、小説家、劇作家、評論家。実存主義(無神論的実存主義)の思想で有名。代表作は『存在と無』、『嘔吐』等。
*注釈2:St. Paul(? - 65)。古代ローマ・ユダヤ人の理論家。新約聖書の著者の一人。
*注釈3: I am not saying this because I am in need, for I have learned to be content whatever the circumstances. 訳:われ窮乏ともしきによりて之これを言いふにあらず、(わたしは乏しいから、こう言うのではない。わたしは、どんな境遇にあっても、足ることを学んだ)
*注釈4:Aleister Crowley(1875 - 1947)。秘密結社、《黄金の夜明け》団の神秘主義者。トート・タロットの制作者、オジー・オズボーンの"Mr. Crowley"のモチーフとしても知られる。

{Sep 29, 2012}
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